細胞内の物流システムで巧妙に動き回る細菌とは?
分解されないレジオネラ
風呂の排水口や加湿器などに見られる「ぬめり」は、単なるせっけんかすや汚れではありません。微生物やアメーバという単核生物の集合体です。このアメーバに宿主する細菌が入った水しぶきを吸うと、肺炎などのレジオネラ症を起こします。この通称「レジオネラ」が細胞内でどのような振る舞いをするかがわかってきました。通常、細菌などの異物が細胞内に侵入すると、免疫細胞がすかさず分解します。ところがレジオネラは免疫細胞のマクロファージだけに感染して、注射針のようなものから特定の物質を放出し、分解されないように経路を遮断するのです。
物流システムを利用し生き延びる
レジオネラの動きはそれだけにとどまりません。私たちの細胞の中では、実は正確な物流システムが機能しています。まず工場にあたる小胞体でタンパク質を作り、それを小胞という小さな袋に入れて、配送センターのゴルジ体に運びます。実際の物流では、荷物の行き先ごとにバーコードを付けて仕分けをしますが、ここでも同じことが起こっています。64種類のRabという物質がバーコードの代わりになり、それに従って袋を入れ替えて、各所に運んでいるのです。この時レジオネラは、ゴルジ体に運ばれるRab1というバーコードを身にまとって袋をかすめ取り、ゴルジ体のように擬態する結果、最終的に小胞体で増殖します。このようにミクロの物流システムの中で、巧妙に生き延びようとするのです。
特性を生かして医学に貢献
レジオネラの特性は、ノーベル生理学・医学賞でも注目を集めた「オートファジー」という細胞機能をブロックできる点にもあります。オートファジーは細胞に栄養がなくなった時に、自身のタンパク質を分解してアミノ酸を補填することで飢餓状態の細胞が生き続けられる優れた仕組みです。しかし、同時にそれはがん細胞の生存を助けてしまうことがあります。それゆえ、オートファジーをブロックするレジオネラの特性を利用すれば、がんの治療に役立てられるかもしれません。
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