魚も恋をする? 人間の社会行動の起源を魚に探る
魚は社会性の高い生き物
人間は高度な社会性を進化させた生き物で、状況に応じてにさまざまな人間関係を作ることができます。このような社会的な性質・行動がどのように進化してきたのかを調べるために、脊椎動物の進化の過程で一番昔に枝分かれした魚類の行動と脳についての研究が行われています。
魚には、複数の個体で協力して子育てをしたり、群れの中で序列を作って秩序を保った振る舞いをしたりといった高い社会性を持つ種が存在します。こうした社会行動を制御している脳のメカニズムがヒトと同様なものであれば、我々ヒトが持つ社会性は魚と枝分かれする頃には進化していたという仮説が成り立ちます。
恋人に感じる愛着は人間だけのもの?
例えば、恋人に感じる「愛着」は人間に特有のものなのでしょうか。魚にも、長期間に渡って同じつがいで繁殖する一夫一妻の種類がいます。一夫一妻を維持するには、例えば一度繁殖した相手を覚えたり、パートナーの浮気を防いだりといった行動が役に立つでしょう。ある種の魚では、こういった行動を制御する生理活性物質が、人間が恋人との絆を作り維持するときに働く物質と同等であることがわかりました。この物質は、個体の意欲を司る別の神経回路を調節する役割を担っているため、その根本となる神経回路自体が人と魚で共通しているかを調べるための研究が進められています。
壮大な生物進化を実験で証明
ダーウィンが提唱した自然選択説は、実験的な実証が難しいという弱点を抱えています。生き物は何億年もの時間をかけて進化してきたため、進化を直接観察することは困難なのです。それに対し、ある生き物の社会行動を制御している神経メカニズムや、それを作り出す遺伝基盤がわかれば、最新の遺伝子工学技術を取り入れることで、ごく小さな規模で自然選択を人為的に再現することはできるかもしれません。つまり、行動という形の無い現象を、脳に注目して制御メカニズムという実体に変えることで、ヒトや魚を繋ぐ社会性の進化を実験的に検証することを目指せるのです。
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北里大学 海洋生命科学部 海洋生命科学科(水族増殖学研究室) 助教 福田 和也 先生
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