同位体の比率から知る生き物たちの姿
物質の循環を知る
地球上の元素には、同じ原子番号でも中性子数の異なる「同位体」が存在します。例えば炭素には中性子が12、13、14の同位体(それぞれ¹²C、¹³C、¹⁴C)があり、¹²C、¹³Cが安定同位体、¹⁴Cが放射性同位体です。
炭素の安定同位体(以降、同位体)の平均的な存在比は、¹²Cが約99%で¹³Cが約1%ですが、実はこの“約”1%の中にはたくさんの情報が詰まっています。
質量が軽い¹²Cと重い¹³Cとでは、¹²Cのほうが、物理的・化学的な反応に必要なエネルギーが少なくてすむため、何らかの有機化合物が基質から生成される時には、反応プロセスの違いや、代謝量を反映して、その反応の前後で同位体の比率に差が生まれます。この「わずかな変化」を捉えることで、生態系での物質とエネルギーの循環や、代謝、生物の環境への適応を理解する研究がおこなわれています。
アミノ酸(窒素)の代謝がわかる
同位体比を使って物質・エネルギーの利用を理解するためには、「いつ・どんな基質が反応し、どこに・どんな情報が残されるか」という知見と「そのシグナルを検出する測定法」が必要で、タンパク質を構成する「アミノ酸」を対象とした解析法は2007年に開発されています。アミノ酸が分解される「脱アミノ化」において同位体比が変化し、残ったアミノ酸に重い窒素同位体(¹⁵N)が濃縮します。つまり、生き物の組織などを対象にアミノ酸の窒素の同位体比を測定できると、その生物がどのくらいアミノ酸を分解・利用しているのかがわかります。
脂質(炭素)の代謝を理解したい
しかし、生物はタンパク質以外にも脂質や糖をエネルギー源(や、炭素源)として利用します。特に寒冷地に住む動物や、冬眠や休眠をする動物、また飢餓への適応などには脂質の代謝が重要な役割を果たしていると考えられます。生物をとりまく物質・エネルギー循環をより体系的に理解するために、現在、脂質を分解・利用した時に得られる炭素同位体比の情報を得るべく、測定法の開発が進められています。
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