カイコは医療用材料の生産工場 ~シルクで実現する再生医療~
シルクの生体への高い適合性
数千年前から衣服の素材として親しまれてきたシルクは、古代エジプトの時代から外科手術の縫合糸としても使われてきた、生体適合性の高い材料です。精錬したシルクは拒絶反応や炎症を起こしにくいという特長に着目して、2000年代に入ってから、再生医療用のメディカル材料としての可能性が模索され始めました。明治から戦前まで、世界有数の生産量を誇っていた日本には、シルクの生産や加工に関する研究や技術の蓄積があります。そうした技術が最先端の医療用材料の開発を支えています。
再生医療用材料としての可能性
シルクを水に溶かしてタンパク質の「フィブロイン」の水溶液を作り、凍結させたり、電気的な処理をしたりすることで、不織布やスポンジ、樹脂、透明フィルムなど、さまざまな構造体が作れます。こうして作られた構造体は、再生医療用材料として、実用化の研究が進んでいます。
最も実用化に近いのが、関節の軟骨の再生への活用です。シルクから作ったスポンジに軟骨細胞を入れ、軟骨が損傷した関節面に当てておくと、良好な軟骨組織が再生されます。シルクに細胞を活性化する働きがあると思われますが、単にシルクのタンパク質を細胞に入れても効果はないので、スポンジの表面の物性や構造が、細胞に影響を与えていると考えられます。シルクは、ほかに血管や皮膚、角膜、骨などの部位の再生でも好結果を出しています。
メカニズムを解明して、用途拡大へ
再生医療に効果があるという現象は実証されていますが、実は、なぜ効果があるのかというメカニズムはまだ解明されていません。シルクはタンパク質100%で人体にとって異物ですが拒絶反応が起こりにくいことがわかっています。しかし、その理由は、はっきりしていません。また、なぜ、生体組織の再生を促す細胞の増殖や分化に効果があるのか、そのメカニズムも未解明です。これらの課題を解決することで、再生医療用素材としての活用が一気に拡大することが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
信州大学 繊維学部 応用生物科学科 教授 玉田 靖 先生
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