ミルクの出し過ぎは危険! 乳牛の乳量をコントロールせよ
ミルク生産増加のジレンマ
ミルク生産に特化するために品種改良された乳牛は、1頭の赤ちゃん牛を育てるのに本来必要な量の3倍から5倍ものミルクを作ることができます。ところが生産性を追求した結果、母牛が食べ物から摂取するエネルギー以上のミルクを生産し、病気になってしまうという問題が生じています。これが重症化して繁殖障害を起こせば、妊娠できなくなってしまいます。持続的な乳生産のためには乳量をコントロールする技術が必要ですが、乳量の増減がなぜ起こるのかは未解明のままです。そこで乳量の増減について、細胞レベルでのメカニズムを明らかにする研究が行われています。
乳腺上皮細胞の小胞体がカギ
細胞の中にある「小胞体」という器官は、細胞の中で作られたタンパク質を折りたたむ役割を担っています。タンパク質を豊富に含むミルクが作られるのは「乳腺上皮細胞」であり、その小胞体について調べたところ、小胞体にかかるストレスが乳量の増減に関係していることがわかってきました。小胞体へのストレスのレベルは大きく3段階あり、レベルが低いときは、小胞体が拡張されて乳量の増加につながります。しかし、レベルが中程度になると病的な状態に陥り、さらにレベルが上がると細胞死へと至ります。これは乳腺上皮細胞が死んで数が減ると乳量も減るという事実に一致します。また、体がエネルギー不足になると脂肪組織から取り出される飽和脂肪酸が、乳腺上皮細胞の小胞体に重篤なストレスを与えていることも明らかになりました。
小胞体へのストレスをコントロール
乳牛として広く飼育されているホルスタイン種は、気温が高いと乳量が減ることが知られています。これも熱が小胞体へのストレスとなって細胞死を引き起こしていることがわかりました。
現在、小胞体へのストレスレベルが切り替わるメカニズムを解明して制御し、乳量をコントロールする技術の開発が進められています。それと同時に、ストレスを低減する添加剤を飼料に混ぜる方法も進められています。
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