世界中のトウガラシを集めて保存するのはなぜ?
トウガラシの多様性
トウガラシはバラエティー豊かな作物で、品種によって色や形、辛みなどが全く異なり、野菜や香辛料として使われています。また、世界中で生産されており、例えばネパールの「ダレ・クルサニ」というトウガラシはサクランボのような見た目ですが、一味唐辛子の5倍以上の辛さがあります。
長野県のある老舗七味唐辛子メーカーは、大学との共同研究によって「信八(しんはち)」という新品種を開発しました。七味唐辛子に適した辛み、背が低くて倒れにくい、霜が降りる前に収穫できるという特徴があります。この信八は、世界中から集めた種子を保管している「ジーンバンク」にある種子も使って作られました。
品種改良の材料を集める
このジーンバンクに保管されている種子は、交配親になり得る在来品種や近縁野生種を世界中から集める「遺伝資源探索」により収集された品種です。
病気などに強く安定してたくさん収穫できる新しい品種が開発されると、昔から栽培されてきた在来品種は、優れた新品種に置き換えられてしまいます。また環境の変化により、自生していた近縁野生種が絶滅してしまう可能性もあります。一方、このような在来品種や近縁野生種には最近の新品種にはないような特徴やその遺伝子を持っている可能性もあります。だからこそ、それらが完全になくなってしまう前に、さまざまな種子を集めておくことが重要なのです。
未来への資源を残す
遺伝資源探索で集められた種子は大学や研究機関で栽培され、果実の色や形、辛み、茎の背丈、どの病気に強いのかなどが評価されます。遺伝資源種子はこの得られた評価結果と共にジーンバンクに送られ、世界中の研究者からアクセスできるようになり、遺伝解析などの研究や品種改良に活用されるのです。
もし将来トウガラシが全滅するような猛烈な病気が流行した場合、ジーンバンクの種子を使った品種改良が問題解決の糸口になるかもしれません。多様な特徴を持つトウガラシを未来に残そうと、遺伝資源探索や遺伝解析が続けられています。
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先生情報 / 大学情報
信州大学 農学部 農学生命科学科 植物資源科学コース 教授 松島 憲一 先生
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