地名の謎を解き、都市デザインにも役立つ俯瞰景とは
琵琶湖はなぜ「琵琶」の湖なのか
日本最大の湖と言えば、滋賀県にある琵琶湖ですが、なぜ「琵琶湖」と名付けられたのでしょうか。琵琶は、8世紀頃に中国より伝えられた楽器です。その形にちなんで琵琶湖と名付けられたのなら、どこかに琵琶の形に見える場所があるはずです。そこで、琵琶湖を俯瞰(ふかん:高い所から見下ろすこと)できる場所の調査が行われました。
その結果、琵琶湖の全体像を俯瞰して見渡せる眺望点は、わずかに1カ所だけでした。それは、修験道の聖地としても知られた蓬莱山(ほうらいさん)の頂上です。確かにここからの俯瞰景(上から見下ろした風景)では、例えば竹生島(琵琶湖に浮かぶ島)が、琵琶のどの部分に見立てられているのかがわかりますし、これは昔の文献でも確かめられています。
とても奇妙な雪舟の天橋立
室町時代の天才的な水墨画家にして禅僧である雪舟が描いた作品に『天橋立図』があります。ところが、この絵に描かれた天橋立は、現実にはあり得ない形をしています。俯瞰景では少し曲がって見えるはずの天橋立が、絵では横一直線の地形として描かれているのです。
天橋立を眺めるのに絶好と言われる場所は4カ所あります。しかし、その4カ所のどこから見ても、雪舟の絵のように見える場所はありません。ただ不思議なことに雪舟の絵を見た人はみんな、なぜか納得するのです。そこに雪舟の絵のすごさがあります。つまり雪舟は、4つの眺望点それぞれから見える天橋立の特徴を合成して、一枚の絵に仕立てたという仮説が浮かびあがってくるのです。
俯瞰景、仰観景を都市デザインに生かす
俯瞰景や仰観景(ぎょうかんけい:下から仰ぎ見る風景)は、現代の都市デザインを考える上でも、重要なポイントとなります。例えば、博多湾に建設された福岡アイランドシティは、景勝地の中に作られる人工島であるために、その設計においては周辺の風景との調和が求められました。まわりからどう見えるべきかが重要な検討課題となり、その課題解消のために俯瞰景や仰観景などの視点が役立てられたのです。
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