ミクロとマクロをつなぐ、「ゲル化」の化学
分子の世界は私たちの常識を超えている
空気の中の窒素や酸素の分子は目に見えませんが、身のまわりでは常に数え切れないほどの分子が超高速で飛び交っています。今もあなたの顔には、窒素分子が秒速500m(時速約1800km)に近い猛スピードで衝突しているのですが、何も感じません。超高速で飛行している窒素分子は約0.1ミクロン(=1万分の1ミリ)ごとにほかの分子と衝突し、1秒間に50億回も衝突を繰り返しています。人間界の常識では測れないのが分子の世界です。
化学反応で巨大な高分子ができる
分子同士が激しく衝突する際に条件をうまく整えると、分子間で原子の組み替えが生じます。これがいわゆる「化学反応」で、ある種の分子(モノマー)の反応条件をうまく整えると、鎖状につながった高分子(ポリマー)が合成できます。高分子の「高」には「仰ぎ見るほど大きい」という意味があり、そのスケールは窒素など低分子の数百倍もの長さです。ちょうど人間が、自分の身長より400倍近くも大きいスカイツリーを仰ぎ見るようなものですが、そんなに巨大な高分子でも、実際の長さはまだまだ1ミクロン程度です。
ミクロからマクロへ一瞬で跳躍!
ミクロサイズの高分子の間に橋をかけていくと(架橋反応)、ある程度橋かけ点が増大した段階で、一瞬にして反応系全体がひとかたまりになるという急速な変化(臨界現象)が見られます。洗濯のりとホウ砂(しゃ)を混ぜてスライムができる瞬間がまさに臨界現象で、洗濯のりに含まれるポリビニルアルコール(PVA)の長い炭素の鎖をホウ砂の一部がつなげていき、瞬時にして網目構造のマクロサイズの巨大分子(ゲル)ができあがるのです。
ゲル化を起こす反応では原理的にはいくらでも大きな分子を作ることが可能です。網目の中に自重の数百倍以上もの水を吸収できるゲルは、紙おむつなどに使われています。ぷるんとしたソフトコンタクトレンズもゲルの仲間です。これらの柔らかい材料は、生き物に優しい「ソフトマテリアル」として注目されています。
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先生情報 / 大学情報
福井大学 工学部 物質・生命化学科 教授 飛田 英孝 先生
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