未来の新薬開発の実験ツール「マイクロ人体モデル」とは

未来の新薬開発の実験ツール「マイクロ人体モデル」とは

動物実験代わりの実験ツール

新薬の開発では、薬の効果や安全性を確認するために動物で実験せざるを得ないのが現状です。しかし動物愛護の観点から、動物実験はできるだけ少なくすることが求められています。また、動物に効果があった新薬候補化合物が、同じように人にも効くとは限りません。
これらの課題を解決する新しい実験ツールとして研究されているのが、人の臓器の細胞を培養して作ったミニチュア臓器からなる「マイクロ人体モデル」です。例えば、顕微鏡で観察できるプレパラートの上にミニチュアの胃、腸、肝臓を作ってがん細胞とつなげれば、経口投与した薬ががんまで届いて効果があるのかを調べられます。

培養方法を工夫して臓器を再現

臓器の細胞は本来、臓器を構成するようにプログラムされていますが、体外で培養するとそれがうまく働きません。そこで、培養液への成長因子の添加や培養する細胞の組み合わせ、細胞の並べ方など、細胞がうまく育つ培養方法が模索されています。
例えば、肝臓は酸素や栄養をたくさん消費する臓器で、いかに肝細胞と血管細胞をうまく培養するかが課題です。また、腎臓には細胞とタンパク質の膜が層になった糸球体という構造があり、血液をろ過するフィルターの役割をしていますが、これを培養細胞で作ると血液の流れに耐えうる十分な強度が作れません。そこでタンパク質の膜の代わりに別の丈夫な素材を用いてタンパク質でコーティングするといった方法が研究されています。

ミニチュア臓器で人体のモデルを

さらに小腸については、人体の腸の働きを忠実に再現するため、腸内細菌と小腸の細胞を一緒に培養する研究が行われています。一般的に人の細胞を培養するときには、ほかの菌などが混ざらないようにすることが原則であり、これは挑戦的な取り組みだといえるでしょう。
まずは人体の臓器それぞれについて、その機能性を高く再現したミニチュア臓器の完成が目標です。それらを組み合わせることで、創薬の実験に使えるマイクロ人体モデルが出来上がるはずです。

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群馬大学 理工学部 物質・環境類(応用化学プログラム) 教授 佐藤 記一 先生

群馬大学理工学部 物質・環境類(応用化学プログラム) 教授佐藤 記一 先生

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分析化学、ナノマイクロ科学、人間医工学

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メッセージ

最近、あまり科学技術に興味がない学生が多いように感じます。それは、科学が非常に進んだために、世の中のいろいろなものの仕組みがまるで魔法のようで、学校で勉強する理科との関連が見えないからでしょう。しかし、実際は人間が作った製品も自然現象と同じルールにのっとっており、身の回りの物や技術も、実は高校で習う理科の知識の組み合わせでできていることも少なくありません。身近なものの仕組みを、疑問や興味を持って見てみましょう。そうした姿勢が将来の科学技術の発展につながります。

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