PCR反応を応用して、放射線によるDNAへの影響を調べる
「シーベルト」だけではわからないこともある
2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、放射線の影響を表す「シーベルト」という単位を耳にするようになりました。ただしこの数値は、プラスチックやガラスに照射された放射線のエネルギーを測定しているだけで、人体への影響は考慮されていません。放射線は人体のDNAを傷つけますが、損傷を詳細かつ迅速に確認するためには顕微鏡などで観察する必要があります。それには技術と時間が必要です。
放射線のDNAへの影響を知るには
放射線によるDNAへの影響を知るのに簡単に使えそうなのが、新型コロナウイルス感染症の検査に使われているPCR反応です。PCR検査はウイルスが持つDNA(RNA)の特定の塩基配列だけを増やし、ごく微量の病原体の痕跡をあぶり出すという方法です。同様の方法で、放射線で損傷を受けた可能性のあるDNAの一部を増やそうとすると、無傷であれば増えますが、損傷があると増えません。あらかじめ蛍光物質も一緒に加えておくことで、通常より光の増幅が少なければどの程度損傷しているか判断できるわけです。この方法は、現段階では得られる結果の振れ幅(誤差)が大きいという課題があります。対象となる領域をもっと広げる、あるいはサンプル数を増やすことで精度は上がると考えられています。
さまざまな種類の放射線が利用されている
放射線は一つではなく、いくつかの種類があります。紫外線は、電離をする力はありませんが、放射線の一種であり、長く浴びれば日焼けとなり、肌を黒くしますね。エックス線診断で使用されるエックス線は、紫外線と異なり電離する能力を持っており、被ばく量によってはDNAに影響を及ぼすわけです。医療分野で使われる陽子線や重粒子線は、がん細胞を殺すのに使われています。医療用とはいえ放射線には違いありませんから、健康な場所にも影響を与えているかもしれません。PCRによるDNA損傷検査は、そうした被ばくの簡易チェックにも使える可能性があると考えています。
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福井大学 工学部 機械・システム工学科 原子力安全工学コース 准教授 松尾 陽一郎 先生
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