あなたが、化学の教科書に「新たな1ページ」を刻むかもしれない

あなたが、化学の教科書に「新たな1ページ」を刻むかもしれない

存在しない分子を「造形」するための研究

世の中に存在する物質は、複数の原子がつながった分子によって構成されているということを、中学校の理科で学んだと思います。あらゆるモノが、分子からできているということは、逆に言うと、世の中に存在しない分子を「造形」すれば、「この世にまだない物質を作り出すことができる」ということです。現在、「有機構造化学」の分野では、有機合成技術などを活用して、常識外れの分子構造を持つ、まったく新しい有機化合物を生み出す研究が進められています。

二重の「環」を持つ新しい芳香族の合成に成功

「芳香族」に分類される代表的な化合物に「ベンゼン」があります。炭素原子6個が正六角形に並び、その外側に水素原子が1個ずつ結合した「ベンゼン環」と呼ばれる構造が特徴です。その外側にもう1つの「環」を持つ分子が作れないかという研究が、以前から行われていました。理論的には可能だとわかっていたのですが、合成に成功した事例がなかったのです。しかし先ごろ、中心となるベンゼン環をプラットフォームにして6個のセレン原子を環状に配置する設計により、世界で初めて「二重芳香族」の性質を示す化合物の合成が実現しました。この事例は、いずれ物性化学の教科書に新たな理論として掲載されることになるはずです。

物性化学の分野に新たな理論を確立

ベンゼンは正六角形の分子として有名ですが、このベンゼンを2つ、3つ、4つと連結させていくと、それぞれナフタレン、アントラセン、テトラセンと呼ばれる分子になります。ベンゼンは無色透明な液体ですが、テトラセンになると有色固体の発光物質に変化します。これらの物質は、もともと自然界に存在していたものだけではなく、研究者の創意工夫の末に生み出されたものです。「世の中に存在しないもの」を作り出せることが、こうした新しい分子を造形する研究ならではの面白味です。

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先生情報 / 大学情報

埼玉大学 理学部 基礎化学科 助教 古川 俊輔 先生

埼玉大学 理学部 基礎化学科 助教 古川 俊輔 先生

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有機構造化学、物理有機化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校時代は、好きなことを一生懸命やることが大切だと思います。私自身、朝からギターを弾いてばかりで、胸を張って「勉学に打ち込んだ」と言える生徒ではありませんでした。それでも、大学入学の直前に読んだ本で化学に関心を持ち、大学では本格的に化学について学ぶようになりました。
これは、勉強しなくていいという意味ではありません。同調圧力に屈していろいろなことを我慢するよりも、好きなことを一生懸命やることの方が得るものが大きいと思っています。どんなことでも深く追求する過程では、良い学びを得るものです。

先生への質問

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