人類が使わないことを決めた元素「水銀」
長いつきあいのある元素「水銀」
水銀は、古代から利用記録が残っていて、近代以降も蛍光灯などのランプ類をはじめ、計測機器や化学工業プロセスで使われるなど、人類と長いつきあいのある元素の1つです。しかし今、人類は「水銀の使用をやめる」という勇気ある決断をし、そのための一歩を踏み出そうとしています。どういった理由から、この決断はなされたのでしょうか? また水銀にはどのような運命が待ち受けているのでしょうか?
地球規模の汚染をストップするための「水俣条約」
暮らしや生産活動で利用され続けてきた水銀ですが、有害な側面もあります。その代表例が、工場から出た有機水銀汚染が原因で起きた水俣病です。今はこのような激甚な被害はあまりありませんが、人間が使った水銀が大気中に放出されて海に入り、有機水銀としてマグロなどの魚介類の体内で濃縮され、それを摂食することで起こる「低濃度曝露」への注意勧告は、日本でも特に妊婦やその可能性のある人に向けて行われています。
このように大気中に放出されることで起こる地球規模の環境汚染や健康被害から、水銀の新規採掘や水銀含有製品を使い続けることをやめようという動きが出てきました。そして2013年に、水銀の使用を規制する国際的な取り決め「水銀に関する水俣条約」が、熊本市と水俣市で開かれた国際会議で採択されたのです。この条約は50カ国が締結してから90日後に発効することになっています。
技術開発と仕組みづくりに今から取り組む
一方で、地上に残った水銀という廃棄物をどう扱うかという課題が残っています。水銀は元素であり、分解することができないのです。そこで、環境工学の世界では、水銀を硫化水銀のような人工鉱石にして安定化する研究が進められています。同時に必要なのが、それらを持続的にうまく隔離・管理する仕組みづくりです。これは人類がまだ経験していないことですが、先送りにせずに私たち世代が考え、準備していかなければならない問題です。
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京都大学 工学部 地球工学科 環境工学コース 教授 高岡 昌輝 先生
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