過去から現代に続く都市空間の謎を解く「歴史地理学」
現在の都市は江戸時代の遺産
高校の地理では、基本的に現代の産業や貿易を学びますが、歴史地理学では日本史、世界史と融合して「過去の地理」を研究します。例えば現在の47都道府県の県庁所在地は、ほとんどが近世、江戸時代の「城下町」でした。そうでない都市は札幌、新潟、千葉、横浜、奈良、神戸など少数派です。つまり、私たちは知らず知らずに、江戸時代の遺産の上で暮らしているのです。しかし、金沢のように城下町だと強く意識できる都市もあれば、東京のように意識する人のほとんどいない都市もあり、さまざまです。
城下町の「つくり」とは?
江戸時代の枠組みがよく見える歴史都市のひとつが名古屋です。まず名古屋城として思い浮かぶのは、シャチホコのある天守閣(本丸)です。そこを二の丸、三の丸が囲んで名古屋城を構成します。しかし明治維新が起こると、城主の尾張徳川家は華族として東京に移住し、家老たちもそろって爵位(しゃくい)を得て東京に移りました。その結果、名古屋の中心部に巨大な空白地帯が生まれたため、新政府が官有地として入手し、戦後は官庁街となりました。他県でも官庁街の地名が「丸の内」だったり、公立の学校や役所、NHKなどが城の近くに集まっているのはこのためです。
また、現在のJR名古屋駅から伸びる東海道線は、城下町を南から迂回(うかい)する不思議な経路を取っています。一刻も早く鉄道を通そうと、空いていた西側の湿地帯を利用したからです。結果として名古屋の繁華街は、町人地であった東の栄と、新しい西の名駅(めいえき)の2つに分かれることになりました。
人間の生き方を地図から解く
このように歴史地理学では、人々の生活を地図から解いていきます。西欧にも城下町はありますが、日本のそれとは大きく異なります。西欧における城下町とは辺境に新たに構築した要塞に人間が入植していく計画都市でした。「城下町」という同じ用語を使っても、文化の違いが表れます。都市の仕組みは一朝一夕で出来上がるものではなく、長い年月の積み重ねの結果なのです。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 総合人間学部 文化・地域環境講座 教授 山村 亜希 先生
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