時代とともに変遷した『源氏物語』の評価
少女マンガかスター・ウォーズか
『源氏物語』は、一条天皇の中宮・藤原彰子(しょうし)に仕えていた紫式部が、仕事の合間に執筆したものです。最初の読者であった彰子や女官たちにとって、源氏物語はまるで連載少女マンガのように続きが楽しみなものでした。おそらく作品が好評だったので、紫式部は途中から長編小説にすることにしたのでしょう。光源氏の誕生から元服、最初の結婚までが書かれた第一帖『桐壺』は、あとから書き足されたものだという説もあります。もしそうだとすると、エピソードⅣから始まり、後にⅠ~Ⅲが製作された映画『スター・ウォーズ』とも少し似ている部分があるかもしれません。
地獄? いや、仏だ!
源氏物語は、時代によってさまざまな受け取られ方をされた作品です。
中世は仏教の力が非常に強く、嘘や好色は厳しく戒められました。そこで平安時代末期に、「紫式部は源氏物語を書いたために地獄に落ちた」「源氏物語を読んだ者も地獄へ落ちる」などという風説が現れたのです。
しかし読むなと言われると、ますます読みたくなるのが人情です。鎌倉時代になると、「源氏物語は仏の教えを説くために書かれた」「紫式部こそ仏の生まれ変わり」という、一種の方便のような解釈が登場しました。華やかな人生を送った光源氏も最期は幸せではなかったため、「好色は空しいことであると戒める書」というわけです。
愛読者は学者から庶民まで
江戸時代には儒教思想の流れから、武士や学者の間で道徳的・教訓的な評価がされた反面、一般庶民にも広く読まれるようになりました。井原西鶴の浮世草子『好色一代男』は、ある男の一生を54章で書いたものですが、54帖からなる源氏物語のスタイルを踏襲していることが見てとれます。そして江戸時代後半になると、国学者の本居宣長らによって実証的な研究が行われました。現代につながる、近代的な学問の始まりです。
このように時代や階級を超えて、多くの人を魅了してきた源氏物語は、たいへん懐が深い文学なのです。
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京都大学 文学部 教授 金光 桂子 先生
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