広い視野をもって憲法を考える「憲法学」
憲法の条文にはない「プライバシー」
情報技術の発展にともなって、個人情報保護やプライバシー侵害などが社会問題となっていますが、1947年に施行された憲法の条文には「個人情報保護」や「プライバシー権」という文言はありません。
憲法には複数の合理的な解釈がありうる
とはいえ、憲法にも社会の変化に対応できる仕組みがあります。その代表的な例が、憲法13条の「幸福追求権」です。新たな基本的人権が必要になった場合、幸福追求権をその保障の根拠にすることができると考えられています。一方、同13条の「公共の福祉に反しない限り、……〔幸福追求権などについて〕最大の尊重を必要とする」という部分だけを見ると、公益のためであれば、基本的人権をいくらでも制約できるとも読めます。しかし、それでは「最大の尊重」という文言や同じく13条に書かれている「すべて国民は、個人として尊重される」という規定と整合しません。他の文言や規定と整合性がないため、公益を無制限に優先する解釈は退けられるのです。このように、憲法をどのように解釈し運用するかを研究するのが「憲法(解釈)学」です。不適切とはいえない合理的な解釈が複数ある場合もありますが、多くは憲法というルール内での整合性をベースに社会のありようなども含めてより良い解釈を考えていきます。
求められる「全体的な視野」
法学は語学に似ています。単語だけ、文法だけを覚えても、文章を読んだり話したりできないのと同じように、基本的な用語の定義や最高裁判所が下した重要な判断をある程度覚えた上で、その理屈を理解しておかないと、うまく使いこなせません。また、一つの法律のみが関わる事件は少なく、例えば、刑事訴訟の中で、ある規定を使って被告人を処罰するのは基本的人権の侵害ではないかと争いになり、刑事訴訟法、刑法、及び憲法が全て関係してくることは少なくありません。それらが全体として社会においてどう機能するかを考察する必要があるため、法学は「全体的な視野」が求められる学問です。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 法学部 准教授 音無 知展 先生
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