日本人の「幸福」について経済学を使って考える
「幸福」を研究する経済学
本来、経済学は人間の幸福について考える学問です。しかし、幸福そのものを経済学で研究する「幸福の経済学」が関心を集めるようになったのは、最近です。幸福は主観的な概念で、定義づけることや、異なる人の間で幸福を比較することが難しかったためです。
伝統的な経済学では、人間の幸福を測る代理の指標として所得やGDP(国内総生産)を重視してきました。日本は1人当たりのGDPが大きく、物質的に豊かな国です。伝統的な経済学の考え方では、私たちは幸福とされているのです。しかし、人間の幸福がすべてお金で買えるとは限りません。
GDPが増えても幸福度は増えない
幸福の経済学では、幸福度を測るのに、生活満足度という指標を用います。日本におけるGDPと生活満足度の関係を時系列で見ると、1人当たりの実質GDPは大きく伸びているのに比べて、生活満足度はほとんど伸びていません。
自分の所得が増えたとしても、まわりの人たちの所得も増えていれば、幸福度が上昇しなくなります。また、所得の増加は、社会的な地位の上昇と相関するので、所得が増えた人は自分と比べる対象が変わってしまい、より多くの所得を求めるようになるのです。高くなった所得の水準にやがて慣れてしまうこともあるでしょう。
生活指標から見た幸福
OECD(経済協力開発機構)の調査では、豊かさに関する複数の指標について、38カ国間で比較しています。興味深いのは、「健康」です。「健康」指標は、平均寿命と自己申告の健康度を組み合わせたものです。日本は平均寿命ではOECD加盟国の中で最高ですが、自己申告の健康度では下から二番目となっています。日本人は客観的に見ると健康であるのに、なぜそれを実感できないのでしょうか。これは日本人の特質を考えるうえで興味深い現象であり、そこを解き明かすことが、医療制度や政策を改善するためのヒントになります。
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駿河台大学 経済経営学部 経済経営学科 教授 佐川 和彦 先生
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