乳酸は「疲労物質」ではない
素早いエネルギー源としての糖
生物は生きるためにそのエネルギーをどこかから取り入れ続ける必要があります。このときに主に登場するのが、糖や脂肪です。
糖は、運動のほかに脳が働くためにも使われる、非常に大事なエネルギー源です。水に溶ける糖は、体内での運搬のために多くの水を必要とします。また、タンパク質にくっつきやすい性質もあるため、血液中に糖が余り多くなりすぎても問題があるなど、あまり多くは貯められない性質があります。一方で糖は、必要なときに瞬間的にエネルギーを作り出す力に優れています。例えばダッシュをすると、1秒から2秒でもエネルギーを作り出します。このとき体内では糖から乳酸になる反応が起こり、乳酸はミトコンドリアによって最終的に多くのエネルギーに変わります。ただし、乳酸を使うための反応速度は糖が乳酸に変わる反応速度よりも遅いので、体内に乳酸がたくさんあふれてしまいます。
今も残る誤解
おそらくあなたは、乳酸は「疲労物質」だと思っているでしょう。しかし実際に調べてみると、マラソンやサッカーの試合の後半、疲れているはずの選手の身体からは乳酸が減っています。現在では、乳酸はむしろエネルギー源であると考えられるようになってきました。
では、そもそも「疲れている」というのはどういう現象なのでしょうか。「疲れた」状態になるには、「病気になった」状態と同じようにいろいろな要因が考えられます。「乳酸がたまったから」とひとことで説明できるものではないのです。
この誤解は、「筋を収縮させて疲労した筋には乳酸が蓄積される」と証明した実験のためでした。この証明があったために「乳酸がたまって組織が酸性になり、筋収縮ができなくなった状態」が「疲れた状態」と考えられたのです。現在では研究が進んでさらに細かいことまでわかってきましたが、「乳酸は疲労物質」という誤解は今も残っています。
乳酸は決して悪いものではありません。食品、スポーツドリンク、医療の点滴にも使われる、優秀なエネルギー源なのです。
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