人体を光らせてがんの放射線治療の見える化を可能にする
がんの放射線治療
がんの三大治療法は、外科療法、化学療法、放射線療法です。放射線療法は、放射線を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。体を切らずに治療できるために患者の体力面への負担が少なく、臓器の機能の温存が優れていることもあり、近年、選ばれる割合が増えてきました。
放射線は人の目には見えません。そのため、治療前に放射線ががんに当たるような治療のシミュレーションを行います。ただ、実際の治療ではがんへ正確に放射線が当たっているかがわかりません。また、臓器の健康な部分に照射してしまうと、障害を引き起こすこともあります。そのため、がんへ放射線が当たっているところを可視化する研究が進められてきました。
核反応による光をキャッチする
放射線療法ではX線のほか、最近では陽子線も使われています。陽子線は水素の原子核が束になって流れる状態です。一方で、人間の体も原子でできており、原子核を持っています。照射された陽子線が体内を進むときに、体内の原子核と衝突することで核反応が起きて微弱な光を発する種(不安定な原子核)ができます。この光は人の目には見えませんが、特殊な装置で光を捕まえることができます。光の強度や分布を画像化することで、陽子線の当たっている場所をリアルタイムで可視化できるのです。
光の動きでがんの状態がわかる
このシステムは既に医療現場で使われ始めています。さらに、核反応によりできた光を発する種が時間経過によりどのように動くのかを観測する研究も始まっています。がん細胞の表面は活動が活発で栄養豊富な一方で、中心部へは栄養が行き届かないために冬眠状態になっている場合もあります。放射線治療はがんが活発な状態でないと殺傷能力が落ちてしまうのです。活発ながんは血液の流れが多いので、陽子線を当てたことでできた光を発する種は外側に流れていきますが、冬眠状態の部分は光り続けます。これを正確に計測することにより、がんの状態を可視化し、より効果的な治療に活かすことができるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 医学部 保健学科 放射線技術科学専攻 教授 西尾 禎治 先生
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