植物の中の「水」の動きを観察する技術とは
植物に適切な水を管理する
植物が根から取り込んだ水は、体の中を流れて吸収したミネラルを全体に届け、光合成で作られた糖を貯蔵場所である球根などに運びます。また、葉からは水を蒸散させて体温を調節しています。このように植物にとって水は生命維持に欠かせないものです。多すぎても少なすぎても問題が生じるため、栽培するにはそれぞれの植物に最適な水管理が必要です。そこで、植物内部の水分布や水移動の観察を可能とし、効率的に管理する技術が研究されています。
中性子イメージングによる植物内の観察
植物に傷をつけずに内部の水分布を観察する方法として、放射線の一種である中性子線を用いた「中性子イメージング」があります。通常のX線撮影は重い元素に適しており、軽い元素でははっきりとしたコントラストが得られません。それに対して中性子線を用いる方法では、水素(H)などの軽元素でもはっきりとしたコントラストで画像が写し出されるため、植物内部の水の状態を撮影できます。ほかにも、「トレーサー」となる物質を使うことで、植物内の水の移動も中性子イメージングで観察できます。このトレーサーには、微量な添加物質である「重水(D₂O)」を利用します。水と重水は化学的性質が似ていますが、中性子イメージングで写し出される色の濃度が異なるため、植物の道管内の色の濃度の違いから、水の流れを観察できるのです。
「水ポテンシャル」の測定装置の研究
植物が水をどのくらい必要としているかを評価する「水ポテンシャル」という指標がありますが、現在は水ポテンシャルを簡単に測定する方法はありません。これを今よりも簡単に測定できるようになれば、より正確に植物に与える水分量を管理できるようになります。現在、蛍光試薬を用いて植物の水ポテンシャルを推定する装置の開発など、新しいアイディアを試みる努力が数多く進められています。こうした技術は「目で見えないものを見る技術」として、植物や農作物の健やかな育成には欠かせないものなのです。
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