新生児難聴を診断する新しい装置で、適切な療育へ
新生児難聴の原因を診断
難聴には、「伝音難聴」と「感音難聴」の2種類があります。伝音難聴は、鼓膜に穴が開いていたり内耳の骨が固まっていたりと、音を伝える中耳系の異常が原因です。一方、感音難聴は、内耳の蝸牛の中の細胞や神経の異常が原因です。
生まれて間もない赤ちゃんが受ける新生児聴覚スクリーニング検査で耳の聞こえを調べますが、その原因まではわかりません。しかし伝音難聴は10歳程度以降の手術で治すことができます。そこで、新生児の難聴の原因を診断できる検査装置の開発および社会実装をめざした研究が進められています。
共振を利用した新しい診断装置
大人の伝音難聴にはティンパノメトリーという検査機器が使われていますが、これは新生児には使えません。ティンパノメトリーは、1種類の音を耳に入れて鼓膜や中耳から返ってくる音に異常がないかを調べる方法で、耳のあらゆる部分が柔らかい新生児は音がうまく返ってこないのです。また、そもそもティンパノメトリーは感度があまりよくなく、精度は20%程度しかありません。
これに対して、新しい診断装置は「共振周波数」を利用します。共振周波数とはある物の揺れを増幅させる固有の振動数で、物の固さに比例します。低音から高音へ変化する音を耳に入れて、返ってくる音がどこで一番大きくなるかを調べれば、中耳の状態がわかります。共振により音が増幅されるため、新生児の内耳からの返りもとらえることができます。
社会実装へ向けて
生まれつき難聴の子どもは、1,000人に1~2人だといわれています。これは年間で約1,000人となり、疾患としては少数のため、新生児の難聴だけを対象とした検査装置だとすると、医療機器会社が作っても採算が取れません。しかし既存のティンパノメトリーは精度が低いため、新しい装置が全年齢の伝音難聴の診断装置にとって代わる余地は大いにあります。現段階での精度は70%前後ですが、AIなども取り入れて、これを80~90%に上げるための改良が進められています。
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先生情報 / 大学情報
金沢大学 理工学域 フロンティア学類 准教授 村越 道生 先生
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