古代ギリシアでは、野次や神話が政治・制度の鍵に
聴衆にアピールすれば逆転無罪も夢ではない?
紀元前5~4世紀の「古代ギリシア」は、小さな独立国家である「都市国家」の集まりでした。その中には民主政の国家もあり、その制度が最も発達していた国家アテナイでは、女性と奴隷を除き、成人男性ならばだれでも、日本の国会にあたる「民会」に参加することができました。
裁判も民主政に基づいて行われました。まず原告と被告が、裁判員を務める一般の人々に向けて演説し、無罪・有罪を主張します。その後、その聴衆が投票することで、無罪か有罪を決定していました。
記録に残されている「野次の飛ばし方」
演説の際には、聴衆の「野次」も上手く利用されていました。例えば、被告が無罪を狙って、これまで国家にどれだけ貢献してきたかを裁判員にアピールすると、原告側にとって不利になる可能性があります。そこで、被告がそのようなことを言い始めたら、話を聞かずに「野次を飛ばしてほしい」と頼んでいたという記録が残されています。また、野次の対処法として「多くの聴衆から野次を飛ばされたら謝ること」などと記された演説指南書のようなものも残っています。
歴史の史料は、時の権力者やその周りの知識人が記録したものが多い中、古代ギリシアの史料は、一般の人々に向けたマスメディアのようなものが残されています。そこが古代ギリシア研究の面白味と言えるでしょう。
ギリシア神話が外交に一役
古代ギリシアではギリシア神話も政治と関わりがありました。当時、それぞれの都市国家は、どの神・英雄が自分たちの国を創ったのか、といった建国に関する神話を持っており、それらを外交交渉に利用していたのです。
例えば、強国アテナイといい関係を築きたいと考えた都市国家は、「我が国の建国の英雄はアテナイからやって来た」と神話を用いて外交を進めました。ヘラクレスの子孫が建国したとされるスパルタは、同じ一族が創ったとされる周辺諸国と優位な関係を築くために神話を利用したと考えられています。これも、古代ギリシアの歴史のユニークな側面と言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 文学部 教授 佐藤 昇 先生
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古代ギリシア史先生への質問
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