昆虫の羽ばたきが持つ驚異のメカニズム

昆虫の羽ばたきが持つ驚異のメカニズム

昆虫の飛行能力の不思議

昆虫が飛ぶメカニズムは、飛行機とはまったく異なっています。空を飛ぶためには、体を浮かせる「揚力」と、前進する「推進力」という2つの力が必要です。ジャンボジェット機の場合、大きな翼で揚力を得て、ジェットエンジンで推進力を得ていますが、昆虫は、羽の羽ばたきだけで揚力と推進力の両方を生み出しています。また昆虫は、空中での静止や前進後退を瞬時に切り替えることができ、強い風や雨の中でも安定した飛行能力を保っています。

世界初の国家プロジェクト

昆虫など小さな生物の羽ばたきのメカニズムは、従来の航空力学では説明できない部分が多くありました。そこで日本では、1992年から国が巨額の研究費を投じて、世界初の国家プロジェクト(ERATO「河内微小流動プロジェクト」1992年-1997年)としてこの分野の研究に取り組みました。
この「微小流動プロジェクト」で解明されたことの1つは、昆虫の羽ばたきは、羽のまわりに小さな空気の渦を発生させ、それが揚力と推進力を同時に生み出しているということです。飛行機のような大きな物体の場合、渦の発生は飛行機を失速させかねない厄介なものですが、小さい昆虫はその渦を上手に利用して飛んでいるのです。

昆虫に学ぶテクノロジー

昆虫は大きさによって、羽ばたきの回数も違います。ミツバチで1秒間に約250回、体長1ミリのアザミウマだと1秒に約1000回も羽ばたきます。高速の羽ばたき、薄くてしなやかな羽の構造、そしてまわりの状況の変化を感知する優れたセンサーが、昆虫の安定飛行のカギであると考えられています。こうしたメカニズムの解明は、回転翼を利用したものとはまったく異なる、次世代のドローンの開発につながると期待されています。
昆虫サイズの飛行体を作るのは技術的にかなり難しいのですが、試験的な実験機はすでに成功しています。近い将来、昆虫の安定飛行制御のメカニズムを取り入れたドローンが、狭い空間や危険な場所を自在に飛び、情報収集や災害救助などに活躍するかもしれません。

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千葉大学 工学部 総合工学科 機械工学コース 教授 劉 浩 先生

千葉大学 工学部 総合工学科 機械工学コース 教授 劉 浩 先生

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生体規範工学、機械工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

今後20年あるいは50年先の技術の発展を考えた時に、もっと自然から学ぶ必要があるでしょう。私はこれから大事になるのは生物学だと思います。自然現象に対して常に興味を持って接してください。それは自然界の優れたシステムを学ぶことにとどまらず、人格形成の面においても大切だと思うからです。
また、専門的な研究に入ると視野が狭くなりがちですが、物事に対して「広く見る目」と「狭く深く見る目」の両方が必要です。自然を愛する心を育て、そうしたことも学んでいってください。将来どこかで必ず役に立つはずです。

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