プレゼントを渡して、メスの気を引く昆虫のオス
オスからメスへのプレゼント
動物の中には人間のような行動をとるものがいます。例えば、ヘビトンボという昆虫は、交尾をするとき、オスがメスにプレゼントを贈る「婚姻贈呈」と呼ばれる行動をとります。オスは、体内で栄養満点のゼリーを作って貯えておきます。交尾のとき、それを押し出して作った「精包」をメスの尾部の先端に付けます。精包の中心部にある精子は、その後メスの体内へ入っていきますが、その外側のゼリー状物質はメスによって全部食べられてしまいます。つまり、精包がオスからメスへのプレゼントなのです。
オスにとって、とても高価なプレゼント
精包は大きくて、メスにプレゼントを渡すと、オスは体重の10~20%を失ってしまいます。メスを探して次の交尾をするためには、また体内でゼリーを作って貯めなければなりません。餌が十分に取れたとしても、体重を回復させるには2日ほどかかります。オスの寿命はそれほど長くないので、一生の間に数回しか交尾ができない勘定です。メスにとって、この精包は自分の栄養になるのでとても得をします。オスにとっても、メスが精包の栄養を使って卵を成長させて産卵してくれると、自分の子へ栄養を渡すことが可能です。
牙が長いオスは力でアピール
しかし、ヘビトンボの仲間には、交尾のときにオスが大きな精包を渡さない種類もいます。そうしたオスでは、クワガタムシのように、牙(きば)が長くなっています。こうした種類では、メスを獲得するために、オス同士が長い牙を使ってけんかをします。こうしたけんかでは、より立派な牙を持っているオスの方が有利です。もし、ここで、大きな精包も渡すとなったらどうでしょうか? オスは牙も大きくしなければならないし、たくさんのゼリーも作らなくてはなりません。とても身が持ちそうにありません。そのために、大きな精包を作る種類では牙は小さく、牙が長い種類ではゼリーを作らないというわけです。プレゼントで気を引くか、強さで魅了するか、異性へのアピール方法は、人間も昆虫もあまり変わりがないようです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 林 文男 先生
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