痕跡から読み解く縄文社会の暮らしと変化
縄文時代の定説を疑ってみる
縄文時代と呼ばれる期間は1万数千年におよびますが、その中には幾度か大きな変化があります。とりわけ、中期と後期の境目には、環状集落が廃絶するなど、人口が減少する衰退期があると考えられています。その背景として、気候冷涼化が要因というのがこれまでの定説ですが、実はこれを裏付ける確実な気候データがありません。
縄文時代の人口動態や社会変動の研究は、従来は集落研究が中心でした。しかし、縄文社会の変化を捉えるためには、人々が使用していた土器、儀礼にかかわる土偶や石棒、環状列石と呼ばれる構築物、生業活動など、複数の要素に着目して分析し、総合的に考える必要があります。また縄文研究の盛んな南関東だけではなく、北関東や甲信越、さらには東北地方など広域にわたる比較研究を行うことで、各地の地域差や変化のメカニズムを読み解くことが可能になります。
お焦げから浮かび上がる暮らし方
縄文時代を知る重要な手がかりの一つが土器です。煮炊きの道具として主に使われていたのが深鉢でした。浅鉢はもともと煮炊きには使われていなかったものの、注口(ちゅうこう)つきの浅鉢が登場してからは、煮炊きに使用されるようになりました。内側に残されたお焦げを理化学的に分析してみると、浅鉢の方が深鉢よりもやや油分が多い内容物であることがわかりました。当時の人々が煮炊きする食材によって、深鉢と注口付浅鉢を使い分けていたことが判明したのです。このように、発掘された資料を一つ一つ読み解くことで、縄文社会の暮らしぶりが少しずつ明かされていきます。
最新の科学で古代に挑む考古学
考古学では、炭素や窒素同位体を測定する食性分析や年代分析、土器や石材の産地を明らかにする分析など、多くの理化学的な分析手法が活用されています。こうした分析は、理系の研究者との共同研究というかたちで行われる場合も少なくありません。今後もさらに学際的な研究を進める中で、縄文社会の実態やその変化を解明する新たな研究手法の発展が期待されます。
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先生情報 / 大学情報
千葉大学 文学部 人文学科 教授 阿部 昭典 先生
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