私たちをひきつける作り話の魅力
人間はウソ(虚構)を楽しみたい
私たちには、日常的な現実とは違う、面白い話、怖い話、荒唐無稽(こうとうむけい)な話、夢のような話を作りだし、楽しみたいという願望があります。現実ではない、ウソはウソとして、そこに想像力の豊かさを感じるのです。
想像の世界は自由で、そこに制限はありません。昔話や言い伝えが題材でもいいし、見たこともない海外が舞台でも、あの世や夢だって対象です。SFのように、科学から発想が広がる話でもかまいません。このような物語への願望は、古典文学の時代から現代まで、小説やマンガ、アニメ、ドラマ、映画、ゲームなどさまざまなメディアで、次々と新しい物語を生み出しています。
近代作家の描いた「別の世界」
日本文学は、数多くの想像力に満ちた物語を生んできました。『竹取物語』の、月から人がやって来て竹から生まれるという設定は、当時の人にとってもファンタスティックなものだったでしょう。人間の内面を描き、リアリティを追い求めた近代文学の作家たちも、さまざまな異界の物語を創造しました。『こころ』を書いた夏目漱石には、アーサー王伝説を題材とした小説があります。また、泉鏡花は生涯、妖怪と幽霊の話を書き続けました。現在の、ネット上の仮想現実をテーマとした小説と本質的には変わりません。言葉の力だけで、別の世界を作るのが文学なのです。映画やアニメといった映像よりも簡単で、最も歴史の古い、虚構の構築です。
物語から歴史・社会へ
空想的な物語であっても、現実と無縁ではありません。一見すると、ファンタスティックな話が、歴史や政治と深く関わりを持っていることもあります。科学の発達がSFというジャンルを生み、精神分析による人間の無意識の発見が二十世紀の幻想文学に大きな刺激を与えました。物語にはさまざまな要素を取り込む力があります。物語を読んで、考えるということは、その自由さを楽しむことであるとともに、歴史や社会へと関心を広げていくことでもあるのです。
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先生情報 / 大学情報
福岡大学 人文学部 日本語日本文学科 准教授 永井 太郎 先生
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