講義No.01233 法学 社会学

贈与と賄賂の危うい関係

贈与と賄賂の危うい関係

チップも立派な裏金

裏金という言葉は新聞やテレビのニュースでよく見聞きします。正確には、自分に有利な計らいをしてもらう見返りとして、その関係者に対し正規のルートとは別に密かに利益を与えることと定義されます。また、賄賂とは裏金の中でも特に違法性の高いものを指し、裏金を受け取った者が、その職務に関係することで不正を行った場合にのみ刑事罰の対象として認定されます。
例えば、医学部の学生が卒業の際に指導教員に数十万円のお金を贈ることが慣例化していた例では、教員がもしお金をもらって本来不可になる論文を可にしていたなら、それは大学教員という直接の職務に関わっていますから有罪ですが、それ以外の個人的な論文指導や人格形成をしてもらったことなどに対する学生の「お礼」という形であれば、倫理的な問題はあるにせよ、司法は介入できません。
また、欧米に行き、ちゃんとしたレストランで食事をすると、サービスしてくれるボーイやウェイトレスに対して代金以外にチップを払わなければいけません。それもこの定義からすれば裏金ですが、レストランのボーイが贈収賄で検挙されたという話はいっこうに聞きません。それは、チップはあくまで社会的慣習であり、ボーイ個人が客からサービスの明確な対価として受け取っている訳ではないからです。

日本社会のダブルスタンダード

この点からすると、日本社会はきわめて奇妙な社会です。まず、法律の観点から言えば、ほんのわずかな違法収入でさえ即座に賄賂と認定し、有罪とするような厳しい法制度が整備されています。ところが、日本文化としては贈り物のような社会慣習を重視する傾向がきわめて強く、これは先の厳罰主義の法とは矛盾します。
このジレンマを解くときは、何が贈与で何が裏金・賄賂かという判断は司法の法律論だけでは決着がつかず、多くの場合、国民感情のような社会全体の曖昧な空気に頼らざるを得ません。厳罰主義の法という「タテマエ」と社会の空気という「ホンネ」、この使い分けの合間に日本的贈収賄は住み着いているのです。

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先生情報 / 大学情報

一橋大学 法学部 法律学科 教授 王 雲海 先生

一橋大学 法学部 法律学科 教授 王 雲海 先生

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メッセージ

日本社会はいまグローバル化の波に洗われ、皆が外国ばかりを見て、自分の国がいままで築き上げてきたものへの自信をすっかり失ってしまっています。しかし、一人一人の平凡な日本人が皆、自分の好きなことを好きなだけやれば、日本はきっと活性化していくはずです。もちろん、そこには法律を守るという条件はあります。あなたも、法律を守って、その上で思い切って自分の人生を生きてください。

先生への質問

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