自分の利益を他人に分け与えるのは、実は自分のため?
現実は理論通りにはならない?
経済学の理論を実際に人間で試す研究があります。これを「実験経済学」と言います。経済学の理論は、現実世界を単純化した条件のもとで組み立てられることが一般的です。経済学の理論において、人間は自分の利益の最大化を合理的に追求する存在だと想定されています。しかし、複雑な現実世界においては、人間がその理論通りに行動しないことも珍しくありません。
人間の複雑な心理
例えば、2人の人間をペアにして、片方にだけお金を与えるとします。そして、お金をもらった人は、お金をもらっていない人に、自分のお金を分け与えることができるとします。この場合、経済学の理論では、お金をもらった人は、「自分の利益を最大化するために、相手にお金をまったく分け与えない」と考えます。
しかし、実際にこれを人間で実験すると、相手にお金を分け与えるケースがよく見られます。そこには「相手の期待に応えたい」など、理論に組み込むのが難しい人間の複雑な心理が関係しているからです。実験の結果は、相手と対面しているかどうかや、相手の性別・年齢などの条件によっても変わってきます。
人間は合理的な生き物ではない?
この実験における実際の人間の行動は、必ずしも合理的でなかったわけではありません。自分の利益を少なくしてまで相手にお金を与えるという選択は、複雑な現実世界においては、時として合理的な判断でもあるのです。
例えば、この実験の相手が友人なら、あなたも相手にお金を与えないという行動を選ばないでしょう。そして、その選択の背景には、今現在の利益よりも、その後の人生を踏まえた利益(友人関係の維持など)を最大化するための合理的な計算が働いているはずです。
このように人間は、一見すると他人に利益をもたらす利他的な行動をしているようでも、実はトータルで見ると自分の利益を最大化できるよう、合理的に行動しているケースもあるのです。
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亜細亜大学 経済学部 経済学科 准教授 加藤 一彦 先生
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