データから読み解くイギリス経済史
産業革命では子どもも働いた
18世紀のイギリスで始まった産業革命では、生産技術のイノベーションが起きただけではありません。資本家が労働者を雇って生産に従事させながら利益を追求し、労働者は仕事の対価として賃金を得るという資本主義の仕組みも発達したのです。ただしその雇われ労働者の中には、子どもも多く含まれていたことがわかっています。
当時の記録をデータ化して分析
経済の歴史研究において、文献を読み解くタイプの研究に加えて、当時の記録を数値化して分析する手法が広がりを見せています。ある研究では、イギリスの識字率について、産業革命前後の識字率を示す当時の記録をデータ化して大量に観察したところ、産業革命期には識字率の改善が停滞していることが確認されました。児童労働の拡大が教育に影響した可能性があり、さらなる分析が進められています。
イギリスでは17世紀ごろから社会を統計的に把握しようとする「政治算術」が発達し、第一回の国勢調査も1801年に始まっています。また、それ以前の16世紀ごろからの人口を年ごとに把握することも可能です。宗教改革を経て発足したイングランド国教会では、各教会の牧師に対して住民(信者)たちの洗礼や結婚、埋葬といったライフイベントを記録することが義務づけられました。それらをデータ化することで、人口推計が可能になります。当時の教会が意図していなかった記録が現代の歴史家によって活用されているのです。
現代は過去の積み重ね
例えば「18世紀のイギリスの人びとの働き方とは?」というテーマについて統計データで分析していくと、正社員と派遣社員のような働き方が見られます。さらに、その背後にある家族構成や社会保障のあり方なども明らかになり、現代の日本の働き方を先取りしていたケースが見られることもあります。
一見無関係のように思われるイギリス経済の歴史から、現代の日本にフィットした働き方の展望や、社会制度を考察するためのヒントが得られるかもしれません。まさに「現代は過去の積み重ね」なのです。
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大阪大学 経済学部 経済・経営学科 教授 山本 千映 先生
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