文化とは、「能率」なのか?
スマートフォンの「スマート」とは?
スマートフォンをはじめとして、昨今「スマート」という言葉が商品名などによく使われています。「スマート」には「賢い」という意味もあり、高度な情報技術(コンピュータ)を組み込んでいることを指しています。ですが、「スマートフォン」という言葉が日本に登場しはじめたのは、2006年で、現在のものと違ってタッチパネル型ではなく、キーボード付きの多機能携帯電話をそう呼んでいました。多機能であることが「スマート」とされたのです。
文化包丁とスマートフォン
第一次大戦後、大正から昭和初期の日本では、文化鍋、文化住宅、文化生活など、「文化」という言葉が流行しました。当時の日本社会は、「能率的な生活」をキーワードとして、西洋的な便利なものをどんどん取り入れていました。それが「文化的」だとされました。
現在、家庭で普通に使われている包丁は、この時期に普及しはじめたものですが、当時は「文化包丁」と呼ばれていました。それまでは、菜切包丁、出刃包丁など、食材と用途に応じた包丁があったのですが、さまざまな料理を1本の包丁でできる「文化包丁」が広く人びとに受け入れられました。まさに、現在のスマートフォンと同じようなものです。多機能であるもの、能率的なものを昔は「文化」と呼び、現在では「スマート」と名前を付けるようになったのです。
サラリーマンの誕生
人間は能率を求めてテクノロジーを発展させ、新しいテクノロジーを基盤として、社会は変化していきます。日本では、1920年代頃から職業としての「サラリーマン」が爆発的に増え、かつてのブルジョアジー(有産階級)やプロレタリアート(労働者階級)とはまた違った人びと「新中間層」と考えられるようになります。サラリーマンが支える能率的な生産システムに基づき、大量生産、大量消費の時代が進んでいきます。このように、「能率」という言葉でとらえ直すことで、社会の新たな側面が見えてきます。
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先生情報 / 大学情報
成城大学 文芸学部 マスコミュニケーション学科 准教授 新倉 貴仁 先生
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