講義No.08577 社会学

文化とは、「能率」なのか?

文化とは、「能率」なのか?

スマートフォンの「スマート」とは?

スマートフォンをはじめとして、昨今「スマート」という言葉が商品名などによく使われています。「スマート」には「賢い」という意味もあり、高度な情報技術(コンピュータ)を組み込んでいることを指しています。ですが、「スマートフォン」という言葉が日本に登場しはじめたのは、2006年で、現在のものと違ってタッチパネル型ではなく、キーボード付きの多機能携帯電話をそう呼んでいました。多機能であることが「スマート」とされたのです。

文化包丁とスマートフォン

第一次大戦後、大正から昭和初期の日本では、文化鍋、文化住宅、文化生活など、「文化」という言葉が流行しました。当時の日本社会は、「能率的な生活」をキーワードとして、西洋的な便利なものをどんどん取り入れていました。それが「文化的」だとされました。
現在、家庭で普通に使われている包丁は、この時期に普及しはじめたものですが、当時は「文化包丁」と呼ばれていました。それまでは、菜切包丁、出刃包丁など、食材と用途に応じた包丁があったのですが、さまざまな料理を1本の包丁でできる「文化包丁」が広く人びとに受け入れられました。まさに、現在のスマートフォンと同じようなものです。多機能であるもの、能率的なものを昔は「文化」と呼び、現在では「スマート」と名前を付けるようになったのです。

サラリーマンの誕生

人間は能率を求めてテクノロジーを発展させ、新しいテクノロジーを基盤として、社会は変化していきます。日本では、1920年代頃から職業としての「サラリーマン」が爆発的に増え、かつてのブルジョアジー(有産階級)やプロレタリアート(労働者階級)とはまた違った人びと「新中間層」と考えられるようになります。サラリーマンが支える能率的な生産システムに基づき、大量生産、大量消費の時代が進んでいきます。このように、「能率」という言葉でとらえ直すことで、社会の新たな側面が見えてきます。

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成城大学 文芸学部 マスコミュニケーション学科 准教授 新倉 貴仁 先生

成城大学 文芸学部 マスコミュニケーション学科 准教授 新倉 貴仁 先生

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メッセージ

この世の中で、何が自分の身になることなのかはわかりません。「これをやらなきゃいけない」とあせらずに、素直に自分が楽しめることをやり続けてみてはどうでしょう。一見無駄に見えるものの中にこそ、面白いことがあるものです。
例えば、旅は無駄なことと考えることもできますが、無駄の中にこそ可能性があるとも言えます。まずは、自分の身のまわりの出来事に目を向けてみましょう。そしてできれば、同時に外からものを見るという視点も養ってみてください。

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成城大学は小田急線「成城学園前」から徒歩3分の閑静な住宅街にあります。キャンパス内には幼稚園から大学院まであり、学内の敷地を幼稚園児、小学生が歩いています。また、学園の正門には扉が無く、24時間開放されており、さらに大学の周囲には高い塀はなく、低い生垣があります。それは、この地が成城学園を中心に開けた町だからです。在籍者数も5800名という小規模の大学ですので、成城大学では少人数教育の実践(各学部ゼミナールが必修、卒業論文も法学部を除いて必修)に力を注いでいます。