「ハリー・ポッター」の背景にある古代ローマとキリスト教の世界
あの呪文は、古代ローマに起源があった!
「ハリー・ポッター」は、魔法使いのハリー・ポッターが両親を殺害した同じ魔法使いのヴォルデモートと戦うファンタジーで、物語には魔法を使うための呪文が数多く出てきます。多くはラテン語由来の言葉です。その中に「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ、来たれ)」という呪文があります。「パトローナム」は英語ではpatron、「後援者、保護者」という意味です。この言葉の誕生は、古代ローマ社会に起源があります。
パトロヌス・クリエンテス関係とは?
古代ローマ社会では、血縁関係のほかに道義的な人間関係が存在していました。これは保護する者(パトロヌス)と保護される者(クリエンテス)の関係で、「パトロヌス・クリエンテス関係」と呼ばれます。例えば、当時の政治家カエサルはガリア(今のフランス)のパトロヌスであり、そこに住む市民はクリエンテスでした。
一方で、征服した国に対しては属州として重い税金を課していました。また属州民が市民になることと引き換えにお金を徴収したため、パトロヌスには資金力がありました。ガリアに何か問題があると、カエサルは自分の資金でそれを解決することを求められました。一方、クリエンテスは選挙でカエサルを支持します。これは疑似家族のような強い結びつきで、この関係を裏切ることは許されなかったのです。
古代ローマの社会制度をのみ込んだキリスト教
キリスト教はこの社会制度をたくみに利用して信者を拡大しました。昔の偉大なクリスチャンである聖人にご利益(りやく)を持たせ、教会を通じてそれを市民に提供することで、新たなパトロヌス・クリエンテス関係を構築したのです。「パトローナム」が守護霊となったのにはそのためです。
西欧人でラテン語を少しでも学んだ人は、ハリー・ポッターの呪文を聞くと、自分たちの歴史を想起します。ファンタジーといっても単なる作り話ではなく、その背景には西欧の歴史の裏付けがあるのです。
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先生情報 / 大学情報
福岡女学院大学 人文学部 言語芸術学科 准教授 大島 一利 先生
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