死生観の違いから多様性を学ぶ
「死」を学ぶことは「生」を学ぶこと
人の命について考えるときに重要になってくるのが、死生観、特に「死」について学ぶことです。毎日を何気なく過ごしていると、「生」は私たちにとって当たり前になりがちです。しかし、命がおびやかされる状況を想定したり、非日常である「死」について考えてみたりすると、改めて「生」を実感することができます。また死生観は時代や地域によっても大きく異なるので、死生観を学ぶことは、時代や国、宗教による考え方の違いや多様性を知ることにもつながります。
かつて葬式は「祭り」だった
時代による死生観の変化を反映するものの一つに「お葬式」があります。明治以前、人が亡くなったときは、隣近所が協力して葬儀を行ったり、まかない料理を作ってふるまったりしていました。そして葬儀の後は遺族や参列者が死者を埋葬する場所まで見送る、「野辺送り」を行いました。つまり、かつての葬式は一種の「祭り」のようなものだったのです。しかし大正から戦後にかけて「告別式」が広まるにつれ、葬式は業者に任せるのが一般的になりました。時代の変化にともない、身近な人の死は「仲間で送り出すもの」から、「弔問するもの」に変わっていったのです。
日本と海外の「死後の肉体」のとらえ方
日本と海外にも死生観の違いが見られます。日本は欧米などのキリスト教圏の国と比較すると、死後も人の肉体を重視する傾向があります。例えば日本では、災害などで亡くなった人の遺体の一部が見つかっても、体のすべてが回収されるまで捜索が続けられるケースが少なくありません。また日本では諸外国に比べ、脳死判定された人の臓器提供が進んでいないという現状もあります。これらの事例は、死後に肉体、特に愛しい人の肉体の一部が失われることへの抵抗感が理由の一つと考えられます。一方でキリスト教圏の国では肉体よりも魂を重視するため、臓器提供についても日本人より抵抗が少ない傾向があります。このように、死生観は社会や考え方を反映する大きな要素の一つなのです。
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大正大学 文学部 人文学科 教授 村上 興匡 先生
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