あなたの「尊い」は何か 推し活の宗教社会学

聖地巡礼
自分が「推し」ているアニメやゲーム、漫画の舞台を訪れる「聖地巡礼」は、1990年代から始まったとされています。その後、オタクカルチャーや推し活の隆盛とともに拡大し、今ではアニメの大作の舞台に多くの人が訪れる現象は、珍しいものではなくなりました。2010年代に発表されたあるゲーム作品は、実在する日本刀を擬人化したことで高い人気を集め、作品に登場する日本刀が奉納されている神社にも多くのファンが訪れています。神社は本来の宗教的な意味での「聖地」ですが、違う意味合いの「聖地」になるという現象が起きているのです。
「推し」の歴史的連続性?
日本では、限られた人たちのみが聖地への巡礼に参与していましたが、江戸時代にはある程度一般人も親しんでいた、と言われます。たとえば「お伊勢参り」です。本来は三重県にある伊勢神宮を詣でる宗教的な行為ですが、道中で娯楽を楽しみつつ詣でるという側面ももちあわせていました。宗教の深い教えを理解しきることは難しいですが、そこまで足を運び、五感を使ってお参りする「身体実践」であることも含めれば、お伊勢参りと推し活としての「聖地巡礼」には、共通する部分があるかもしれません。
あなたの「尊い」を研究する
「聖地」の意味合いが拡大する現象について、ここ20年ほどで研究が深化してきました。研究においては、当事者の体験や思いに加えて、宗教施設側の受け入れ方やその変化について調査すること、さらにそれらを既存の理論に照らし合わせながらさまざまに分析を試みることが重要です。また、宗教としての聖地巡礼と推し活としてのそれの違いをどう考えるか、というのも重要なポイントでしょう。
このように、宗教について学ぶことは、教義や信仰を掘り下げることだけを意味しません。アニメやゲーム、あるいは何かを「尊い」と思うことなど、私たちにとって身近なことが、新しい研究テーマになり得るのです。
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