反実仮想シミュレーションと政策分析
もしも合併しなかったら
昭和から平成にかけての日本の航空路線の大半は、日本航空(JAL)・全日本空輸(ANA)・東亜国内航空(JAS)の3社が占めていました。平成14年にJALとJASは経営統合し、現在はJALとANAが日本の二大航空会社となっています。このような企業の動きについて、分析し評価する方法を開発することも経済学の領域です。そのためには、合併した結果実現した状態と、合併しなかった場合の状態とを比較しなければなりません。どのようにすればいいのでしょうか。
反実仮想を作る
現実に合併が起きた市場で、合併が起きなかった状態は観察することはできません。そこで、モデルを作ってコンピュータ上に実際には起きなかった市場環境を作り出します。これを反実仮想シミュレーションと言います。例えば、企業間の競争モデルは、連立方程式の形で記述できます。3社の場合なら、A社の意思決定はB社とC社に影響され、同様にB社とC社も他の企業から影響を受けます。このような企業間の戦略的な依存関係を連立方程式で表します。合併後は2社の関係なので方程式は2つです。航空会社だとすれば価格、便数、就航都市というように、お互いに関連し合う重要な戦略変数に対して、それぞれの方程式を作っていきます。このような方程式体系によって導き出される反実仮想と現実を比べることで、合併の評価ができるのです。
良いモデルが良い政策を導く
市場へのインパクトが大きな一定規模以上の企業同士が合併する場合、その是非が審査されます。今後は、このような場面において、反実仮想シミュレーションを用いたより科学的な分析が評価のひとつの基準として使われることになるでしょう。現実を正しく反映するようなモデルを開発することで、政策決定や経営戦略がより正確になっていくと考えられています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 経済学部 経済・経営学科 准教授 西脇 雅人 先生
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