原子レベルで本物の骨を再現! 究極の人工の骨を作る
人工材料を使った骨の治療法とは?
骨折や関節の機能障害などの治療の一つに、手術で人工の骨デバイスを入れる方法があります。人工骨の材料には金属が使われることが多いのですが、その強度が高すぎると周りの骨に力がかからなくなる「応力遮蔽(しゃへい)」が生じて周りの骨がやせ細ってしまうといった問題が起こります。人工の骨をいかに元の骨と一体化させるかが重要なのです。そこで、骨の構造を原子レベルから明らかにして、さらに骨を作る細胞の仕組みから深掘りすることで、生体の骨に限りなく近い人工の骨を作る研究が行われています。
決め手は骨芽細胞の並び方
生体の骨の主な構成成分は、ベースとなるコラーゲンと、その周囲に六方晶系の結晶構造を作るアパタイトです。このコラーゲンとアパタイトの構造には方向性があり、その向きが骨の強度を決定しています。骨は骨芽細胞によって作られますが、骨芽細胞が一定の向きを持って並ぶことで、方向性を持った骨ができます。骨芽細胞をうまく操作することができれば、体内に入れた金属の骨の表面に患者本人の骨芽細胞を適切に並べて、元の骨と一体化するような骨を作れるようになります。まずはネズミの骨芽細胞を使って、体外でチタンなどの金属表面に並ばせて、生体と同じように骨が作れるかどうかが調べられています。骨芽細胞は周囲の形状を探知できるため、段差や溝などを金属表面に作り、それに沿って並ばせることができます。また、骨芽細胞が正しく並ぶためには、骨を壊す破骨細胞や、応力を感じる骨細胞からのシグナルが必要であることもわかってきました。
3Dプリンタで原子から骨に近づける
一方で、人工骨の金属部分も生体の骨に近づけなければなりません。金属3Dプリンタ技術を使えば、表面の溝などの加工だけでなく金属の原子の向きも調整できるので、より本物の骨に近い強度の金属材料が開発されています。
今後はさらに、細胞が骨を作る仕組みの解明や、骨の状態をモニタリングして骨の病気を早期に発見できる技術の開発なども目標とされています。
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