「体の中で溶ける金属」でみんなの負担を減らしたい

体内で溶ける金属?
医療用金属デバイスはチタンやステンレスが主流です。人工関節や歯科インプラントなど、体内にずっと残り、長期間にわたって荷重がかかるものが多いため、「強度があり体内で変質しないもの」という条件を満たすからです。
骨折をしたときも、折れた骨をプレートとボルトでつなぎ、治るのを待つという治療を行います。治った後もプレートは体内に残りますが、そのままにしておくと、骨に荷重がかからないため骨が痩せてきます。また、CTやMRIで正確な画像が取れないという支障も生じます。そのため、骨折が治ったら金属を取り出す手術を行うのが一般的です。
しかし、そのプレートが体内で溶けてなくなるとしたら、検査への支障も、再度手術する患者そして医療従事者の負担もなくなります。そこで、こうした「強度があり、かつ、体内で溶ける」医療材料の研究が注目されています。
体の中にある元素を利用
治療後に不要となる骨折プレートや、内視鏡手術での止血クリップは、強度を満たしつつ、体液に一定期間触れている間にイオン化して分解していく材料から作られます。既に欧州では、マグネシウムにネオジムなどの希土類元素を混ぜた「溶ける金属デバイス」が製品化されています。ただ、希土類元素は長期的に臓器に沈着する可能性も指摘されています。そのため、より安全な材料でできた新しいデバイスの開発が目指されています。
溶けるスピードもコントロールできる
研究の結果、マグネシウムに亜鉛とカルシウムを加えた材料が開発されました。どの元素も体内にあるもので、一定量を超えたら腎臓などで代謝され、体外に排出される仕組みが体に備わっているので安全です。また、2つの元素を微量に同時に追加することで、壊れにくく、かつ治療期間だけ体内に残すことができる機能が追加されました。
動物実験での成功は収めており、今後人体に応用できれば、患者の負担の少ない医療用金属デバイスができると期待されています。
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神戸大学工学部 准教授池尾 直子 先生
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