地域の再生・発展をめざすときに必要な「批判的地域主義」
地域に根差していればいいのか?
建築を設計するとき、「地域に根差す」という考え方はとても重要ですが、注意も必要です。全国各地で元気のなくなったまちを再生しようという動きがあります。その際に「地域に根差す」ためにと、その地域によくある建物を安易にコピーしたり、伝統的な建物の外見だけをまねたり、時代やその地域の生活に合わなくなっているのに伝統に固執したりする場合があります。こうした設計態度ではなく、必要なのは地域に根差しつつも、本当に必要なものは何かをクリティカルに考える「批判的地域主義」です。地域の将来をクリティカルにとらえる眼差しが不可欠なのです。
月影プロジェクト
新潟県の旧浦川原村(現在の上越市浦川原区)にあった月影小学校は、1874年に開校し、多い時には300人以上の子どもたちが学んでいました。しかし、過疎化の影響で、2001年に廃校になりました。地域の中心的存在だった小学校を地域の人々も納得する方法で再生・活用できないかと、「月影プロジェクト」がスタートしました。2005年に完成した宿泊体験交流施設「月影の郷(さと)」には、年間5000人の宿泊客が訪れます。
本質を徹底的に追求
月影プロジェクトには、東京圏の4つの大学の建築学科の研究室が地域住民と共同で参画しました。学生たちは年月をかけ、代替わりもしながら、現地の人々の意見の聞き取りを重ね、小学校をどのような形に生まれ変わらせるか、徹底的に議論しました。施設のコンセプトが決まった後も、施設内の食堂、客室、浴場などのパートごとに多くのアイデアを競わせ、時には組み合わせて、設計をブラッシュアップしていきました。地域住民と共に、まさに「批判的地域主義」を実践したわけです。
廃校などをリノベーションして、ほかの施設として活用しようという事例はいくつもあります。しかし、期待した成果が出ないケースも少なくありません。少子高齢化や過疎化の進む国・日本において地方の活性化を図ろうというとき、「批判的地域主義」は重要なカギとなる概念なのです。
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先生情報 / 大学情報
法政大学 デザイン工学部 建築学科 教授 渡邉 眞理 先生
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