良好な音環境をつくる「サウンドスケープ」という考え方

良好な音環境をつくる「サウンドスケープ」という考え方

都市の生活空間にあふれる人工的な音

道路を走る自動車の騒音や店舗の宣伝放送、スーパーに流れるBGMなど、都市には人工的なさまざまな音があふれています。また居住空間では、隣人とのコミュニケーションが薄れる中で、近隣騒音問題がよく発生します。私たちの生活空間における「音」の問題は、音の発生源となる人と、その音に対して不快感を抱く人の立場が相互に入れ替わることや、人工の音と自然の音が混じり合っていることから、複雑な関係をつくっています。こうした現代の建築・都市空間において、より心地よい音環境をつくり、音環境に対する人々の意識を高めようという考え方が「サウンドスケープ:音の風景」という概念です。

環境音を音楽と同じように聴く立場を提案

サウンドスケープという言葉は、1960年代にカナダの作曲家・R.マリー・シェーファーによって提唱されました。彼は、音楽がコンサートホールなどの音の聖域で演奏される一方で、外界の環境音は雑音として無関心のまま放置され、騒音公害の増大をもたらす「音の二極化」を問題視しました。そこで、一般の空間にあふれる環境音を音楽と同じように審美的に聴く立場を提案したのです。例えば、自動車の騒音が途切れた瞬間に聞こえる、公園の木々が風にそよぐ音や鳥のさえずり、また寺の鐘や祭の音は、地域の文化・歴史的な価値のあるサウンドスケープといえます。

良好な音風景でコミュニティの快適性も向上

サウンドスケープの概念は、1970年代のWSP(世界サウンドスケーププロジェクト)の活動を通して広まっていきました。日本では、1993年に日本サウンドスケープ協会が発足し、音の出る橋や音を聴く公園、都市空間の音の演出といった、デザイナーによる音の仕掛けや空間設計が現れるようになりました。人々が自然や都市の良好な音風景に価値を見出すことは、都市生活の音環境だけではなく、コミュニティとしての快適性の向上にもつながるのです。

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先生情報 / 大学情報

熊本大学 工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム 教授 川井 敬二 先生

熊本大学 工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム 教授 川井 敬二 先生

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建築音響学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は建築学の中で音を専門としています。建築というと美しいデザインや地震に強い構造設計などが注目されますが、もともと建築とは人間が健康で快適に過ごせる空間づくりから始まりました。その快適さのために音はとても重要な要素です。波動現象である音は壁を抜けて伝わってきます。外からの騒音をいかに防ぐか、いかに室内の響きを最適に設計するかなど、私たち建築音響の専門家は音の物理を理解し、建築に実践しています。建築をめざして大学に入ったら建築音響分野もしっかり勉強して、将来は音のわかる建築家になってください。

先生への質問

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熊本大学に関心を持ったあなたは

熊本大学は、「総合大学として、知の創造、継承、発展に努め、知的、道徳的、及び応用的能力を備えた人材を育成することにより、地域と国際社会に貢献する」という理念に基づき、地域のリーダーとしての役目を果たしています。かつ、世界に向け様々な情報を発信しながら、世界の学術研究拠点、グローバルなアカデミックハブとして、その存在感を高める努力をし、教育においては、累計30件にも及ぶ「特色ある教育プログラム」が優れた取り組みとして文部科学省から認定され、その教育力の高さと質の高い教育内容は定評のあるところです。