七転び八起き! 被害調査を未来につなげる研究
熊本地震で見えた新たな課題
2016年に起きた熊本地震における被害は甚大なものでした。調査によると、古い建物だけではなく比較的新しい建物や耐震補強された建物にも被害が生じていたことがわかりました。また役所や病院など防災の拠点となる場所でも、被害を受けて立入禁止となる建物もありました。
例えば、熊本県のある市役所では、柱と梁(はり)の真ん中の接合部が破壊し、5階建てのうちの4階部分が大きく崩れてしまいました。これまでの地震被害や最近の研究でも、接合部に破壊が起こるという予測は立てられていましたが、今回の地震ではそれが実際の建物の崩壊につながる被害として観測されたのです。
被害調査で得られる貴重なデータ
このように被害が起こった時に現地で調査するのは、研究を行う上で一番大事なことです。時間が経つと被害状況が失われ、データが得られなくなってしまいます。ひと通り調査した後は、被害の背景の仮説を検討するための実験および解析を行い、その結果が今後の耐震基準に反映されます。
例えば、2007年の新潟県中越沖地震が起きた際、ある学校建物において通常通りの解析では梁が壊れるはずのところが、実際は柱が壊れるという被害が調査で見つかりました。検証した結果、建物の床が梁に大きく影響し、柱にダメージを与えているということがわかりました。その後、実験などでの検証を経て設計における床の取り扱い方が変わりました。
未来の災害を減らすために
つまり、まずは被害がわからないことにはよりよい基準へ変えようもありません。一方で実際に建物を建てるのは企業や個人ですから、得られたデータから厳しい基準を設けても実用性がなければ普及しないので意味がなくなってしまいます。
一つ一つの被害の記録をつけ、蓄積したデータを現実に即した基準に反映させることが大切です。実際に災害が起きない限りその必要性は評価されづらい研究ですが、自然災害の多い日本において二度と同じような被害を繰り返さないためにも、非常に重要な研究なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 建築学科 准教授 壁谷澤 寿一 先生
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