美味しい果物をもっと食べやすく! 新しい種無し果実を作る
種無しの突然変異を調べる
「日向夏」は、みかんより一回り大きな黄色い柑橘(かんきつ)で、宮崎県の特産品です。従来の日向夏は種が多く、また同じ木の花粉では受精ができない「自家不和合性」という性質があるため、育てるには別の柑橘の木を一緒に植える必要がありました。そんな中、生産上とても都合のよい性質を持つ日向夏の突然変異体が発見されました。「西内小夏」と名付けられたその変異体は、自分の花の花粉で受精でき(自家和合性)、さらに種は退化してほとんど作られません。西内小夏を調べてみると、花粉ができるときの細胞分裂がうまくいかず、本来なら親の細胞の半分の数であるはずの染色体が親と同じ数含まれていることがわかり、これが西内小夏の特徴の原因であることがわかりました。この西内小夏の性質は、新しい種無しの品種開発などにも利用できると期待されます。
自家不和合性の仕組み
そもそも、自家不和合性は種子の形成を阻害する性質なので、受精しなくても実が大きくなる「単為結果性」という性質と組み合わせれば、種無しの果実ができます。そのため、柑橘の自家不和合性の仕組み解明の研究が進められています。
自家不和合性の日向夏と自家和合性の突然変異体日向夏の遺伝子配列を比較したところ、自家不和合性に関与する遺伝子が明らかになってきました。その一つがRNA分解酵素の遺伝子です。めしべが作るRNA分解酵素が自分の花の花粉には毒として働き、花粉管の伸長を阻害するのです。花粉は自分の花のめしべが作るRNA分解酵素以外の解毒剤は持っているので、ほかの花のめしべには受精できます。今後は花粉がめしべを認識する遺伝子の同定が目標とされています。
新しい品種の性質を簡単に判断
これまで新しい品種の自家和合/不和合性のタイプ(遺伝子型)は、木を育てて実際に花が咲くまでわかりませんでした。しかし、これが遺伝子レベルでわかるようになれば、種をまいて出た葉の一枚からでもその性質がわかります。そのための目印となるDNAマーカー製作も取り組まれています。
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宮崎大学 農学部 植物生産環境科学科 准教授 本勝 千歳 先生
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