触覚で音を聴く、「サウンドアート」の可能性

触覚による音の印象
音は通常、聴覚で聴くものと考えられがちですが、実は私たちは触覚でも音を感じ取っています。例えば楽器を演奏する時、楽器に触れた部分から振動が体に伝わることで、音をより繊細に感じながら演奏できるのです。また心理学の研究では、音に触感が加わると、「音の印象」がより豊かになることもわかっています。ある実験では、コンサートホールの演奏をDVDで視聴する際に、耳で聞くだけでなく、音の振動を椅子から体に伝えると、音楽の臨場感が高まることが確認されました。このように、聴覚だけでなく触覚でも音を感じることで、音楽体験がさらに深く、楽しいものになるのです。
音にも温度がある?
音楽の音色を表現する際には、「硬い音」や「温かい音色」といった表現がよく使われます。もちろん比喩表現であり、音そのものが本当に硬かったり温かかったりするわけではありません。しかし、異なる感覚同士に結びつきを感じる「感覚間協応」という現象や、相互に影響を及ぼす「感覚間相互作用」という現象があり、これは音を主体に表現するサウンドアートにも応用されています。例えば、曲中の明るい部分で演奏する楽器が実際に温かくなったとしたら、音の表現はさらに明るくなるかもしれません。聴覚・触覚・視覚などの複数の感覚を融合させることで、音楽の新しい表現を探る研究が進められています。
未知の感覚を追求
身近な感覚間協応の例として、蛇口の色分けがあります。赤は温かさ、青は冷たさを直感的に連想させるため、赤に回せばお湯が、青に回せば水が出るとすぐにわかります。これを逆手に取り、赤いものが冷たく、青いものが温かくというように逆の感覚を組み合わせると、印象を強調する「対比効果」が生まれることが知られています。主に視覚と触覚の組み合わせについて報告されていますが、音と触覚の対比効果については、まだ十分に解明されていない領域です。もしそのよい組み合わせが見つかれば、私たちがこれまでに体験したことのない、新しい音の体験が生まれるかもしれません。
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