音波を使って瞬時に深い海の中を「見る」
音でしか見えない海の中?
イルカは見通しの悪い海の中でどのようにして餌を探しているか知っていますか? 実は音波を使っています。音波を発すると海の中を伝わっていき、物に当たればはね返ってきます。イルカは自ら音波を発することができ、はね返ってきた音波(エコー)をとらえ、餌となる生物の有無や餌までの距離を探っています。漁船などで使われる魚群探知機も同じ原理で、音波によって魚や動物プランクトンなど海洋生物の存在やその生息深度を知ることができます。音波を使わなければならないのは、海の中では電波や光があまり深くまで届かないためです。
「ブロードバンド音波」でわかること
これまでの魚群探知機は、ある特定の周波数だけの音波を使用していました(例えば50kHz)。これをナローバンド音波といいます。これだと解像度が低く、エコーから計測できる情報も限られていました。例えるなら白黒テレビです。しかし、最近は「ブロードバンド音波」というさまざまな周波数を含む音波が使用できるようになりました(例えば50kHz~100kHz)。解像度は劇的に向上し、生物の大きさや種類に関する多くの情報をエコーから計測できるようになりました。例えるなら4Kや8Kといったスーパーハイビジョンテレビです。そして、イルカの音波もまさにブロードバンド音波です。
なぜ音波で海洋生物を調べるの?
私たちが魚などの海洋生物を利用するためには、採り過ぎによってその資源を枯渇させない必要があります。また、海洋開発を行う場合は、周囲の海洋生物にダメージを与えない必要があります。そのためにはまず、どこに、どのような生物が、どのくらい生息しているか調査する必要があります。音波による海洋生物の調査手法(音響調査手法)はそのためのものです。そのほかには、網で採集する手法、カメラなどで撮影する手法があり、これらも有効です。しかし、深い海の中を瞬時に調査するには音波を使うしかありません。音響調査手法を使わなければ海洋生物の実態には迫れないのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 教授 甘糟 和男 先生
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