水素社会の実現への大きな一歩~下水汚泥から水素を作る~

水素社会の実現への大きな一歩~下水汚泥から水素を作る~

下水で水素を作り、水素で車を動かす

「燃料電池自動車」は、タンクに充填(じゅうてん)した水素を酸素と化学反応させて発電し、動きます。ガソリン車やディーゼル車のように地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出することはありません。環境に優しい車として、電気自動車とともに注目を集めています。水素は、そのままの形では自然界に存在しないため、人工的に作りだす必要があります。その方法の1つが、下水汚泥の発酵時に発生する、バイオガスを原料にした水素製造法です。下水汚泥から水素を作り、その水素で環境を汚染せずに車が動くという夢のようなシステムは、すでに実用化されています。

世界初「下水汚泥を活用した水素ステーション」

ガソリン車がガソリンスタンドで給油するように、燃料電池自動車にも水素の補給場所、水素ステーションが必要です。福岡市の下水処理施設の一角にある水素ステーションは、世界初の「下水汚泥から作った水素を補給するステーション」です。燃料電池自動車への充填に要する時間は、たったの3分です。1回の充填で約650kmの走行が可能で、これは電気自動車と比較して非常に優れた数値と言えます。下水処理施設を活用した水素ステーションは、今後の都市部での水素製造、および燃料電池自動車の普及に大きく貢献する可能性を秘めています。

可能性を秘める一方、課題も多い

下水汚泥以外にも、水素を作るバイオマス、つまり化石燃料を除いた、再生可能なエネルギー資源は存在します。例えば、間伐材や廃材などの木質バイオマスを高湿度で熱してガス化し、水蒸気と反応させて水素を作る方法です。この方法を応用すれば、木質バイオマスから水素を製造する施設を山間部に作り、近くを走る燃料電池自動車の動力とすることも可能です。
ただ、どのような研究においても言えることですが、優れた技術も即実用化できるわけではありません。水素社会の実現のためには、経済性、安全性、法整備、また国民・住民の理解の獲得も、今後の課題となるのです。

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公立鳥取環境大学 環境学部 環境学科 教授 田島 正喜 先生

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