酵母の実験から、アルツハイマー病の治療薬開発をめざす
アミロイドがたまりすぎると
脳の神経細胞は赤ちゃんのときにできて、生涯分裂しない細胞ですが、内部は日々作り替えられています。細胞の表面にあるタンパク質も一度作って終わりではなく、古くなったら作り直しますし、神経細胞内部の更新は2週間サイクルでタンパク質の分解と合成が繰り返され、この分解を担うのが細胞内の酵素(プロテアーゼ)です。
アルツハイマー病患者の脳に多い物質が、分解によって生じるアミロイドという物質の断片です。長年かけて蓄積されるタンパク質のかけらで、アミロイドベータと呼ばれ、長いものが特に危険です。若年性アルツハイマー病の場合、健康な人なら1割以下しか作られない長いアミロイドが多く作られてしまい、中高年になる頃、たまり過ぎて発症します。
モデル生物は酵母
アルツハイマー病に対しては、さまざまな方法で薬が開発されつつあります。そのなかに、身近なパン酵母とヒトの遺伝子を使った研究があります。パンの発酵やアルコールの醸造に使われる一般的な酵母は出芽酵母といわれ、母細胞から娘細胞が出芽し、育つと分裂する、という方法で増殖します。また、細胞の分子機構についての解析が最も進んでいる生物といえます。これを「モデル生物」として使い、細胞内にヒトの遺伝子を入れ、アミロイドを作っている状態なら生育するように設定し、観察するのです。この研究が進めばアミロイド生成に関わる遺伝子を明らかにでき、薬の探索も可能になります。酵母は動物や動物細胞に比べ実験のサイクルが1、2週間と早いのも特長です。
医療の発展に役立つ酵母
この研究では、アミロイドを作らせた酵母の生育を、プレートの上で直接確認します。さらに、生えた酵母の遺伝子やアミロイドも直接観察します。その結果、例えば若年性アルツハイマー病の遺伝子異常を回復させる別の遺伝子変異や化合物を発見することができ、治療薬開発につながります。
酵母を使った研究は、アルツハイマー病以外にも、例えばパーキンソン病などでも行われており、医療への応用が期待されます。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 農学部 応用生物化学科 生物化学コース 准教授 二井 勇人 先生
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