美術史とは客観的な分析の連続である
美術館で感動してはいけない?
美術史を学ぶという観点からすると、美術館で絵を見るときに、「感動」は不要です。感動という心の動きは、いいと思われるものにすぐに置き換えようとする傾向があって、それは美術史学という学問とは対極にあるものです。美術館に収蔵されている作品は、高尚で、感動すべきもので、わかる人とわからない人がいるというような先入観を壊していくのが美術史学の考え方です。そして作品を客観的、分析的、批判的に見ていくのです。
美術史とは何を研究対象とするか
美術史とひとくくりに言っても、対象によって研究の仕方や内容は違います。縄文土器を研究している人には、発掘して地層やモチーフなどを検証していつの時代のものか判定していく考古学的なアプローチが必要でしょう。仏教美術が専門なら、どの時代のどの宗派のもので、どのように後に補修されていったか、表現やモチーフ、寺社の文献などから探っていきます。西洋の宗教画を研究する場合は、描かれた時代や画家についてのほか、例えば、聖母マリアの服は青色という約束事を読み解いていく必要もあります。実はこの約束事には、材料面からの視点も大事です。この青色の顔料は原材料がアフガニスタン産のラピスラズリで、ヨーロッパでは稀少で高価だったのです。
ピカソの作品にどこまで迫れるか
近現代の画家の作品は、記録が詳細に残っている場合が多いです。例えばピカソという画家が、ある作品を何年の何月何日にどこで描き、いつ発表したかまで、はっきりわかっているのです。では何が研究対象になるかといえば、そこに何が描かれているか、表現されているかということです。『ゲルニカ』なら、ピカソの画風の変遷(青の時代、ピンクの時代、キュビズム時代など)、パリ万博のスペイン館用の展示として依頼された背景、ゲルニカ村が爆撃され無差別殺人が起こった事実、そして批評家や観客の反応など、多面的に迫っていくのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
武蔵野美術大学 造形学部 美学美術史研究室 教授 田中 正之 先生
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