仏像の真の歴史を照らし出す~蛍光X線を使った分析~
元素で仏像の制作年代・制作地を読み解く
日本のお寺や美術館には、古い仏像がたくさん収蔵されています。仏像の材質や、表情・姿態などの様式には時代ごとに傾向があるので、そこから制作年代や地域を読み解くのが一般的です。こうした手法に加えて、近年、金属製の仏像に用いられているのが「蛍光X線」による分析です。微量のX線を仏像にあてると、材質を構成する原子が励起し(高いエネルギー状態に移ること)、元素ごとに固有の波長が発生します。その波長から含有元素が特定でき、仏像の材質が正確にわかるという仕組みです。
定説を覆す大きな発見
蛍光X線が用いられるのは、主に金銅仏という仏像です。主成分の銅のほかに、融点を下げて溶かしやすくし、鋳型に流しやすくするために錫(すず)や鉛、ヒ素などが使われています。蛍光X線を使えば、こうした化合物の割合が元素レベルでわかるので、その違いからより制作年代と地域が推測できる場合があります。
奈良の飛鳥寺にある飛鳥大仏は、鎌倉時代の火災で目の周りと右手の3本の指以外は焼失し、修復されたと言われてきました。しかし2016年の蛍光X線を用いた調査で、顔は大部分が、右手も手のひらの半分ほどが作られた飛鳥時代のままとわかり話題になりました。また、2017年には、江戸時代の日本製とされてきた京都・妙傳寺(みょうでんじ)の半跏思惟像(はんかしゆいぞう)が、7世紀頃に朝鮮半島で作られた可能性が高いことも判明しました。
貴重な資料をテクノロジーで解明
蛍光X線を使った研究は、近年測定機器の精度が大幅に向上し、定量的な測定も容易になりました。また、ポータブルな機械が開発されたことで、仏像研究の現場に応用しやすくなりました。X線の利用としては、人間と同じくらいの大きさの仏像に、医療用CTスキャンが使われることもあります。こうした機器の発達は、研究対象を壊したり、サンプリング(採取)したりすることができない美術史研究において非常に有効です。今後も、仏像の真の歴史の解明に役立てられていくでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 文学部 美術史学専修 教授 藤岡 穣 先生
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