比べると見えてくる、古代語と現代語の文構造の特徴
古代語と現代語の気づきにくい特徴
古代語でも現代語でも、それぞれ単独では気がつきにくい文構造の特徴があります。例えば、古文で、雉(きじ)がありますかと聞かれて、「虚言(そらごと)を、『あり、取りにおこせよ』と言へば」という文章があります。これはそのまま読み過ごしてしまいますが、ふと考えると、現代語では、「『あるよ』と嘘を言う」と言えても、「嘘を『あるよ』と言う」とは言わないでしょう。つまり、古文にはなかった語順の制約が現代語では生じているということです。現代語で「~させられる」と言いますが、古代語ではこのような使役受身文は存在せず、「す・さす」と「る・らる」は「~られさす」という語順で現れます。
古代語と現代語の文法体系の違い
また、語順だけでなく、文法体系にも古代語と現代語の違いはあります。現代語の「昨日寝る前に電話した」は、「寝た」のも「電話した」のも昨日のことですが、これを「昨日寝た前に電話した」とは言えません。しかし、古文には、「くづほれ(衰弱)させ給はざりしさきに、などか仰せられざりし」という文があって、「給はざりしさきに」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形ですから、「昨日寝た前に」という言いかたが成立しています。助動詞「き」の文法的意味は過去だと習いますが、それだけではすまない、時を表すシステム自体が、現代語と古代語とで異なっている、というわけです。同じ日本語なのに、不思議です。
それぞれに深まる理解
この、主節と従属節での時制の表しかたの違いなど、古代語と現代語を対照すると、いろいろなことが見えてきます。「べし」はある場合には「ようだ」、ある場合には「はずだ」と訳されますが、それを理解するためには、現代語の「ようだ」と「はずだ」がどう違うかを知らなければなりません。古代語の「遅く参る」はそのまま「遅く参上する」と現代語訳すると誤訳になってしまいます。古代語と現代語とを比べることによって両者の仕組みがより詳しくわかるようになります。
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國學院大學 文学部 日本文学科 教授 小田 勝 先生
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