実例で読み解く日本語文法のおもしろさ

実例で読み解く日本語文法のおもしろさ

「昨日の授業は学生が10人も来なかった」

ここに挙げた文は、2通りに解釈することができます。「(10人に満たない)5、6人しか来なかった」という意味と、「10人が欠席した」という意味です。なぜ2通りの解釈ができるのかを考えていくと、打ち消しがどの部分にかかるのかによって意味が変わるということがわかってきます。「10人来る」という部分を打ち消していると考えると、「5、6人しか来なかった」と解釈できますし、「来る」のみを打ち消していると考えると、「10人が欠席した」と解釈できるのです。

「私は(   )ここへ来ました」

次に、この文の( )の部分に、以下の言葉を入れていくとします。「4月」「先週」「月曜日」「去年」「15日」「さっき」「2007年」です。どれも時を表すことばですが、これらのことばは2つのパターンに分類することができます。「4月にここへ来ました」とは言いますが、「先週にここへ来ました」とは言いません。「に」がつくかどうかで2種類に分けられるのです。「に」がつかない言葉は、「先週」「去年」「さっき」の3つです。これらの言葉がほかの言葉と違う点とはなんでしょう。それは、この3つは、いつ使うかによって指している時が変わってしまう言葉だということです。つまり、「4月」「15日」などが、絶対的な時を表すのに対して、「先週」「去年」などは、相対的な時を表す言葉だということになります。

日本語の文法は私たちの中にある

最初の例文が2通りに解釈できるということも、2つ目の例文のように時の表現には2通りあるということも、私たちは直観的に理解しています。私たちの中に、日本語の文法がきちんとあるからこそ、文章の曖昧さや不自然さなどを読み取ることができるのです。日本語学とは、日本で生まれ育った人間なら誰でも自然に会得している日本語のルールを、改めて読み解き、分析していく学問なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 大島 資生 先生

東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 大島 資生 先生

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日本語学、言語学

メッセージ

私たちは言葉を使って、見たことや聞いたことを相手に伝えたり、相手に働きかけたりしています。言葉は、人間が世界をどうとらえているか、あるいは世界に対してどう対処しているかをそのまま映し出す鏡ということができます。したがって言葉について考えるということは、結局、私たち人間が何者なのかを考えることにつながっていくのです。人間を深く知りたいと思う人は、ぜひ言葉の世界をのぞいてみてください。私たちがふだん何気なく使っている言葉の背後に、驚くほど豊かな世界が広がっていることがわかります。

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東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。