実例で読み解く日本語文法のおもしろさ
「昨日の授業は学生が10人も来なかった」
ここに挙げた文は、2通りに解釈することができます。「(10人に満たない)5、6人しか来なかった」という意味と、「10人が欠席した」という意味です。なぜ2通りの解釈ができるのかを考えていくと、打ち消しがどの部分にかかるのかによって意味が変わるということがわかってきます。「10人来る」という部分を打ち消していると考えると、「5、6人しか来なかった」と解釈できますし、「来る」のみを打ち消していると考えると、「10人が欠席した」と解釈できるのです。
「私は( )ここへ来ました」
次に、この文の( )の部分に、以下の言葉を入れていくとします。「4月」「先週」「月曜日」「去年」「15日」「さっき」「2007年」です。どれも時を表すことばですが、これらのことばは2つのパターンに分類することができます。「4月にここへ来ました」とは言いますが、「先週にここへ来ました」とは言いません。「に」がつくかどうかで2種類に分けられるのです。「に」がつかない言葉は、「先週」「去年」「さっき」の3つです。これらの言葉がほかの言葉と違う点とはなんでしょう。それは、この3つは、いつ使うかによって指している時が変わってしまう言葉だということです。つまり、「4月」「15日」などが、絶対的な時を表すのに対して、「先週」「去年」などは、相対的な時を表す言葉だということになります。
日本語の文法は私たちの中にある
最初の例文が2通りに解釈できるということも、2つ目の例文のように時の表現には2通りあるということも、私たちは直観的に理解しています。私たちの中に、日本語の文法がきちんとあるからこそ、文章の曖昧さや不自然さなどを読み取ることができるのです。日本語学とは、日本で生まれ育った人間なら誰でも自然に会得している日本語のルールを、改めて読み解き、分析していく学問なのです。
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