『源氏物語』の続きが読みたい!から生まれた作品たち

『源氏物語』の続きが読みたい!から生まれた作品たち

『源氏物語』の続き

『源氏物語』には描かれていない部分があります。例えば、桐壺更衣が寵愛(ちょうあい)されるきっかけや光源氏と藤壺の最初の逢瀬、光源氏の死など、どれも重要な出来事ですが、描かれていません。実は、『源氏物語』の空白を補おうとする創作活動が、鎌倉時代以降さまざまな人々によって行われました。今でいう二次創作のような営みですが、少し異なる点もあります。江戸時代に商業出版が行われるようになるまで、文学作品は写本によって伝えられました。当然写し間違いもあり、意図的に書き換えられることもありました。「原作は絶対」という意識は現代ほど強くなく、物語が少しずつ変わっていくのは当たり前でした。だからこそこのような創作活動も行われたと言え、中世に成立した『山路の露』や『雲隠六帖』は、その代表的な作品です。

補作から知る物語の読まれ方

『源氏物語』の後日譚(たん)として書かれたのが『山路の露』です。物語の最後に登場する薫と浮舟のその後を描く作品ですが、冒頭で「『源氏物語』の続きではない」と断っているのが特徴です。『源氏物語』とひとまとまりの物語ではないけれど、二人のその後を知っているから描きますね、と言うのです。作者は『源氏物語』が完成された作品と受け止めつつ、「続きが読みたい」という思いに突き動かされたのでしょう。
一方、『雲隠六帖』は、光源氏の出家と死、さらに薫と浮舟のその後を描く作品で、その名のとおり全6帖です。中世のころ、仏教経典が60巻であるのと同様に、『源氏物語』も54帖ではなく、本来は60帖だったとする考え方がありました。『雲隠六帖』を足せばちょうど60帖になります。つまりこの作品には、『源氏物語』を完全な形にしようという意図があったのです。

物語を読んできた人々の姿

このように、同じ補作でも性格やスタンスは異なります。補作はもちろん、写本や注釈書などをひも解くと、『源氏物語』が読まれてきた1000年以上もの長い間、それぞれの時代を生きた人々の思いまでもが見えてくるのです。

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先生情報 / 大学情報

広島大学 文学部 人文学科 准教授 小川 陽子 先生

広島大学文学部 人文学科 准教授小川 陽子 先生

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日本文学

メッセージ

時空を飛び超え、現代とは異なる世界とダイレクトにつながることができるところが古典作品を読む魅力の一つです。物語享受の軌跡をたどると、生きる時代や社会の違いによる考え方の差異はあっても、魅力的な物語に引かれ、自分なりの解釈を深めていこうとする人の姿は、いつの時代も同じだと感じます。面白いと感じたこと、違和感をもったこと、何かひっかかったことは、そのままにせず言語化して考えてみましょう。それらを丁寧に言語化する習慣は、作品をより深く読み解くための大切な第一歩となるはずです。

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