通貨統合は何のために行うの?
通貨統合と言えば
近年の「通貨統合」で知られるのは、欧州連合(EU)による「ユーロ」でしょう。20世紀に起きた戦争の悲劇を繰り返さないために設立されたEUは、通貨統合によって、もともと盛んだった欧州内の貿易での為替レートの変動をなくしてさらなる経済的な成功をおさめ、域内の結束も高めました。
通貨統合に向けた動きは、中東の湾岸協力会議(GCC)にも見られます。サウジアラビアをはじめアラブ首長国連邦(UAE)やカタールなど6か国が参加するGCCでは、EUの成功から「GCCでも2010年までに通貨統合を」という機運が高まりました。しかし2022年になっても、GCCの通貨統合は実現していません。
なぜ実現しないのか?
1981年に設立されたGCCは、イスラム教シーア派が主流のイランを脅威と感じる、イスラム教スンニ派の国々が参加し、設立時は安全保障体制の性格が強い組織でした。その後、経済面の関係強化が進んだにもかかわらず通貨統合に至らない理由は、大きく2点あると考えられています。1点目は、「為替レートの変動がなくなる」という通貨統合のメリットがさほどないことです。これは、参加国に原油以外の資源やこれといった産業がなく、もともと域内の貿易が盛んではないからです。もう1点は、参加国間で通貨統合に対する覇権争いがあることです。
国家主権でもある「通貨」
GCCにおいて、人口や経済規模の点で存在感が大きいのはサウジアラビアです。ところが近年、経済成長がめざましいUAEや、アルジャジーラという国際メディアを擁するカタールが発言力を増しており、「サウジアラビアとその他の国々」というGCCの構図が揺らぎつつあります。そもそも国家主権のひとつである「自国の通貨」の存亡に関わる通貨統合は、経済的な合理性よりも政治的な思惑が強く働きます。欧州のような「戦争の悲劇を繰り返さない」といった強い理念や結束力がないと、実現はなかなか困難なことがうかがえます。
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國學院大學 経済学部 経済学科 教授 木村 秀史 先生
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