古代の日本語は、どのように発音されていたのだろう?
社会が動揺すると言語は変わる
言語は常に変化しており、同じ言葉でも違う意味に変わることがあります。例えば古代語ではプラス評価だった「あはれ」は、現代語ではマイナス評価の「かわいそう」になり、同じく古代語ではプラス評価の言葉だった「をかし」は、現代語では「異常」という意味で使われています。こうした言葉の激しい変化は社会が動揺しているときに起こるもので、日本語は平安時代中期以降、古代社会が崩壊するとともに変質しました。その後、日本は長い内乱状態にあり、それがようやく落ち着いたのは、江戸時代です。江戸時代の後期に関東方言の流れを汲んだ江戸語が成立し、それが現代東京語のルーツとなります。
「は行」の発音は「はひふへほ」ではなかった
平安時代中期までの古代語と現代語を比べ、最も違いが見られるのが発音です。特に「は行」の発音の変化は顕著で、奈良時代までは半濁音の「パ、ピ、プ、ペ、ポ」に近かったものが、平安時代に「ファ、フィ、フ、フェ、フォ」のようになり、次第に現代のような「ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ」の発音となりました。また「た行」の発音も今よりも柔らかく、「タ、ティ、トゥ、テ、ト」に近い発音でした。その名残として日本人は「パーティ」「ラトゥール」など、「ティ」「トゥ」の入った外国語の発音は比較的得意なのです。
古代語の発音はどうやって調べる?
日本語を書き表す独自の文字は日本語にはなく、奈良時代の『万葉集』は、中国語の漢字を借用して日本語の発音を書き表す「万葉仮名」が使われていました。この万葉仮名が後に平仮名や片仮名に変化します。万葉仮名では日本語の「は」の音は「波」と書かれる場合があり、「波」は古代中国語音だと「ぱぁ」であったことから、当時の日本で使われていた「は」の発音が「パ」であったと推測できます。また、室町時代には来日してキリスト教の布教活動をしていたポルトガル人やスペイン人の宣教師たちがローマ字で当時の日本語を記述したキリシタン資料があり、昔の日本語の発音を調べる方法は意外と多くあります。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 日本語教育学教室 教授 浅川 哲也 先生
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